「美容医療」トラブルに男性も巻きこまれる背景 全国の消費生活センターには多くの相談が…

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現在、筆者は大学で学生と接することが多いが、医者にかかるときに提示する健康保険証の意味を知らない若者がいることに気づかされる。

皆保険制度により国民すべてが公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度のいずれか)に加入しているが、その証として健康保険証がある。保険医による診療で健康保険証を提示し、保険診療を選ぶと自己負担3割(高齢者等は異なる場合がある)で医療を受けられる仕組みである。保険診療の場合は医療費も規定に基づいて算出される。

しかし、保険診療を受けられるのは以下の条件をすべて満たした場合だ。

①治療を必要とする病気やけがであること
②保険医療機関・医師の受診であること
③国が保険診療として認めた治療法であること

通常、美容医療は①の病気やけがの治療ではないから、保険診療ではなく、自由診療となる。

したがって、通常、患者は料金を尋ねてから診療を受けたり、医者と料金交渉をしたりはしない。しかし、自由診療の場合は診療を受ける者と、診療を行う医療機関との間で自由に個別の契約を行い、その契約に基づいて行われる診療なのだ(したがって、美容医療を行う医師・医療機関は保険医登録・保険医療機関指定を受けていない場合もある)。

包茎手術の場合、保険診療の対象になる場合もあるので、尿器科や形成外科への受診をするのもいいだろう。必要以上に危険性をあおったり、コンプレックスに乗じるセールストークがネットで散見される。

美容医療のリスクを消費者はしっかりと理解を

通常は、病気やケガで医者にみてもらう際は保険診療が当たり前なので消費者は保険診療の意味を理解しておらず、結果として美容医療で自由診療を選んでいる自覚に乏しく、そのリスクに気づいていないのだと感じる。だから、医師の言いなりで診療を受けて高額な医療費請求に驚くような状況になってしまっている。

国民生活センターからは下記のような消費者へのアドバイスを出している。

1.広告の内容をうのみにせず、公的機関の注意喚起情報を確認するなど、受診前に効果やリスク等の情報収集に努めましょう

2.施術内容や料金、リスク等について十分に説明を受け、納得できない場合や即日施術を強要された場合には、契約しないようにしましょう

3.トラブルになった場合には、すぐに最寄りの消費生活センター等に相談しましょう
*消費者ホットライン「188(いやや!)」番
最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です

本記事で取り上げた、美容医療サービスは病気の治療と異なり、本人がなりたい姿を実現するため、自ら選択して受ける医療だ。施術を受けるかどうかや医療機関、 医師の選択に際しては、広告の情報だけに頼らず、効果や料金・リスク等の情報収集に努めたうえで慎重に選ぶことが重要だ。

細川 幸一 日本女子大学教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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