ラガルドECB総裁が語った市場との向き合い方 「タカでもハトでもなくフクロウ」の意味とは

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ドラギ前総裁とは違ったコミュニケーションスタイルに(写真:ロイター/Ralph Orlowski)

ラガルド総裁の就任初会合となった12月12日のECB(欧州中央銀行)政策理事会は終始穏やかなトーンで進行し、包括的な緩和パッケージというデビュー戦を強いられたドラギ前総裁とは対照的な印象だった。市場関係者も、今回は政策変更の可能性がないため、ラガルド総裁の政策姿勢やコミュニケーション能力、くだけた言い方をすれば「人となり」を見定める機会として注目していた。

ラガルド総裁自身が質疑応答の始まる前に「申し上げておきたいことがある」と切り出し、相応の時間をとって説明する場面があった。ここでの論点は主に2つ。1つは自身のコミュニケーションスタイルの話、もう1つは金融政策戦略見直しの話であった。どちらも示唆に富む話であったため、取り上げてみたい。

「ありのまま」のスタイルを宣言

まず、コミュニケーションスタイルについては「総裁には皆、彼や彼女のコミュニケーションスタイルがあり、それを比較し、ランク付けしようとするのに熱心な人も中にはいることでしょう。私にも私のスタイルがあります。拡大解釈はしませんし、後から勘ぐることもしませんし、相互参照もしません。ありのままの自分でいるつもりで、おそらくそれが(他の総裁とは)異なります」と自己紹介した。

実際、初会見を通じて感じたことは、厄介な質問を煙に巻こうとするドラギ前総裁とは異なり(それが彼のテクニックでもあったが)、主張とその理由をはっきりと切り分けて聞き手が理解しやすいように説明していたことである。

こうした落ち着きと分かりやすさは、今が政策対応を要さない平時であり、しかも初回だからという部分も、割り引いて考える必要はあるだろう。だが、あの激烈な欧州債務危機時にIMF(国際通貨基金)のトップだった経験を思えば「ありのままの自分」を出しつつ、冷静さも貫けるという気質には十分期待できるのではないか。

なお、質疑に移る直前、ラガルド総裁は記者たちに向かって「あなたがたは中央銀行の主たる聴衆です。しかし、唯一の聴衆ではありません。記者の皆さんよりも専門性や知識が劣る別の聴衆に対し、少し異なる言葉を使って私が説明した際、どうかそこから沢山の結論や決定的な発見を得ようとしないでください」と釘を刺した。総裁のささいな発言が拡大解釈され、市況を動かしてしまう怖さを意識した発言で、今後はきわめて丁寧でわかりやすいコミュニケーションスタイルをとることが予期される。

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