ラガルドECB総裁が語った市場との向き合い方 「タカでもハトでもなくフクロウ」の意味とは
具体的な政策についてはマイナス金利の副作用を問う声が多かった。すでにユーロ圏財務相会合などではマイナス金利の負の側面をクローズアップする論調が幅を利かせている。政策理事会メンバーでもビスコ伊中銀総裁が独紙ハンデルスブラットとのインタビューで「マイナス金利はほとんど役に立たない」、「量的緩和(QE)のほうが効果的」といった趣旨の発言をしたことが12月初めに大きな話題となった。このビスコ総裁の発言を引用した上で「どう思うか」という質問も出た。
ラガルド総裁もマイナス金利に副作用があること自体は認めているが、現行の金利環境が副作用が効果を上回るリバーサルレートなのかどうかという点やQEなど他政策と比較した場合の優劣については言質を与えなかった。
現状がリバーサルレートか、との質問に対し、「経済理論においてリバーサルレートとは信用収縮(貸出の減少)が起きている時のレート」と定義を示し、信用拡張(貸出の増加)が続いているユーロ圏ではまだそれには相当しない、という見解を示した。このあたりの考え方が、今月にもマイナス金利撤回に踏み切ろうとしているスウェーデンの動きなどを受けて、どのように変わってくるのかは注目したいところだ。
また、QEなどほかの金融緩和策と比較した場合の優劣については、「あくまでパッケージとしての効果を狙ったものであり、個別政策を切り分けて考えることはない」と回答している。これは具体的には、イールドカーブを対象に議論した場合、現行の緩和政策において政策金利(マイナス金利)は短期ゾーン、フォワードガイダンスは中期ゾーン、QEは長期ゾーンに影響を与えており、3つの政策が相互に作用することから、個別政策だけで評価するものではないという話である。
これはECBとしての模範解答であり、ドラギ前総裁も口にしてきたロジックである。しかし、そうであれば信用の収縮・拡大という論点だけでマイナス金利の功罪が決まるのではなく、あくまで他政策とのバランスという文脈からマイナス金利の撤回が検討される可能性を、考えておく必要があるかもしれない。
2020年はデジタルユーロも重要な論点に
金融政策以外では、昨今耳目を集めるデジタル通貨に関する質問がやはり出た。EU経済財務相理事会(ECOFIN)としてECBに準備を促す声明文が出てしまった以上、ECBも何らかの回答を示さねばならなかった。見通しを尋ねられたラガルド総裁は、すでにタスクフォースを立ち上げていることと、調査や実験を始めているユーロシステム内の各国中銀と協力することで作業を加速させていく方針を明らかにしている。そのうえで、2020年半ばをめどにECBとして目指すものをまとめたい、とした。
2020年のECBにとって金融政策戦略の見直しが最重要であることは言うまでもないが、デジタルユーロとどう向き合っていくのかについてメッセージを出すこともラガルド体制の初仕事として期待されている。足元では金融政策の「次の一手」に頭を悩ませる必要がなくなっている分、こうした大きな論点に向き合える余裕がある。ラガルド総裁にとっても望ましいことであろうし、ECBの一挙手一投足をウォッチしている筆者としても、数十年に一度の重要な年となりそうで、非常に楽しみである。
※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です
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