そんなある日、出張中にふと、飲み残した500mlのペットボトルを見て思ったという。
「自分は体格がよいほうなのに、飲みきれていない。ということは、女性はもっと小さいものを求めているのでは? そういえば、弁当箱等も小型化しているぞ……」
そこで、大手の水筒開発の動向をリサーチすると、容量は減らさず軽量化する方向に注力していることが判明。「モノを軽くしても飲み物を入れれば重くなるじゃないか」と、業界の方向性に矛盾を感じた小林代表は、「小型化しかない」と確信した。そこからは、「pocket×little×bottle=poketle」というネーミングや、環境にやさしい「必要な分だけ」というキーワードが次々と浮かび、あっという間にコンセプトが完成。このイメージに合わせデザインを詰めていった。
ちなみに、120mlに決めたのは、「知っている飲み物の中で最小量はオロナミンC(120ml)だったから」(小林代表)。OEMのノウハウや人脈も生かされ、ポケトルはわずか5カ月で完成した。
一方で、最後まで大きな不安がつきまとったという。社外の信頼できる人たちに話をすると、散々「売れない」「無理だ」と言われ、社内からも「小さすぎるのでは」と心配されたからだ。それでも潜在ニーズを信じ、やると決めたが、「開発中は、サイズやデザインすべてがこれで正解なのかと悩み精神的にかなり苦しかった」と、小林代表は振り返る。
サステイナブル路線で引き合いも
こうして生まれた6色のポケトルは、昨年秋の展示会で発表するや否やバイヤーが殺到し、増産続きで今に至る。現在も店舗によっては品薄の場合があるとか。今年10月には高さをさらに低くして保温力もアップさせた「ポケトルS」のほか、クリアボトルやスープボトルも投入。大手食品メーカーやアパレル業界からのコラボ依頼も複数あり、今もなお販路は拡大中だ。
また、サステイナブルの象徴としての引き合いも。12月12~13日、京都市での国連世界観光機関(UINWTO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)による国際会議において、ペットボトルの代わりにポケトル300本が配布されたのだ。会場にウォーターサーバーを設置し、好きなときに水を継ぎ足す形で参加者に使ってもらったという。
「使う人の目線を考えたやさしさがなければ、大ヒットする商品は作れない」。これは小林代表が独立する際、恩人の方が送ってくれた言葉だそう。「以来、商品にやさしさが含まれているかという点にはこだわってきました」と、小林代表。
筆者は、このエピソードがストンと腑に落ちた。最新技術や斬新な発想により、使い始める際に戸惑ったり、使いこなすまでに多少時間を要するような商品もある昨今。それはそれで楽しく刺激的だが、やはり誰もが簡単に使うことができ、日常の隙間に潜む不便さにそっと手を差し伸べ支えてくれる商品に人はホッとするのではないだろうか。
ポケトルには、そんな“やさしさ”が確かに感じられる。ヒットの真相は、ここにあるのかもしれない。
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