おっさんと住む元アイドルが得た「最高の天職」 元SDN48大木亜希子、女子の共感を呼ぶ生き方

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父親の死後、それまで専業主婦だった母親は、学童保育やピアノの先生などいろいろな仕事に携わった。大木は家計を支えるため、姉の友人からのスカウトをきっかけとして芸能界入りを決意。双子の姉・奈津子と共に芸能コースのある高校に入学する。そこでライバルと競争しながら、放課後は区民プールへ行って毎日減量する日々。体重が0.1グラムでも増えたらヤバいという、ある種軍隊のような生活を重ねたが、現実はそう甘くない。

「鳴かず飛ばずで、同級生が次々と仕事で授業を休む中、私だけ取り残されて。『あれ?こんなはずじゃなかった』、と思いました。これで母親のことを助けられると思ったのに、そうではなかったんです。認めたくない敗北を認め、その後48グループのアイドルになってようやく、紅白歌合戦も見切れ組だけど出演でき、少しは親孝行もできたかもしれない、芸能界で花開き始めたのかもしれないと思いましたが、実際はまったくそうではありませんでした」

4姉妹の四女として育った。自分の職業を体当たりでつかみ取る姉たちの姿を間近で見てきた(撮影:梅谷 秀司)

家族を支えるため、芸能界で一旗揚げて成功するという彼女のもくろみは、失敗に終わる。

とはいえ、経験は無駄にならなかった。

「いま世の中で注目されている事象やネタや人物の裏側、反義語、主役じゃない部分に着目することが、癖づいて見えるようになりました。目立っているものの真逆を突き進めて、真実を追求していきたいのです」

大木は自分のライターとしての強みをこう語る。主役ではないポジションにいたからこそ、そのときに感じた思いや視点があり、見ることができた世界があった。彼女は今、自分のすべての経験を体中から絞り出し、自らの体内を通して実感した感情を、ノンフィクションという形で書いている。

「私の視点で、私がいま何に注目してスポットを当てるかを見てくださっていると思うので、私と同じように恋愛や結婚、収入などに悩んでいる人たちに寄り添えるようなルポルタージュを書けるような書き手になりたい。私の恥ずかしい過去を露呈することで共感していただけることが、ライターとしての私の使命です」。

元アイドルが文章を通して伝える“アンチテーゼ”

「“元アイドルが文章を書く”ということで面白がってくださる方はたくさんいると思いますが、中には冷やかす人もいます。会社員時代から、『元アイドルなのに請求書なんて作っててウケるね』と外部の方から言われたり、ライターをやっている今だと『元アイドルなのに文章ちゃんと書けるんだね』と言われると超ムカつきます(笑)。

いやいや、『小さな頃から何をやっていたとしても、今、自分はプロの物書きだ!』って思ってしまいます。でも、それは自分に一生ついてまわるものだから、それで注目してもらえることは全然よくて、世の中に対するアンチテーゼでもあります」

アイドルとして実力が発揮できなかった理由を大木は「芸能界で生き残る術、そこで培われる努力の方法がわからなかった」と自己分析する。

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