『貧者を喰らう国』を書いた阿古智子氏(早稲田大学国際教養学部准教授)に聞く
フィールドワークによる「中国論」
--フィールドワークによる「中国論」というのは珍しい。
10年近く前、大学院時代に湖南省の農村、そして上海で、エスノグラフィックスタディ、つまり民族誌的な研究の手法によるフィールドワークを行ったのが皮切り。その後も、農民や出稼ぎ労働者を中心に調査を積み重ねてきた。
中国については、書き手の立ち位置によって大きく見方が異なりがちだ。私は地元の中国の人たちと生活し活動しながら見えてきたものを記したい。人々が葛藤しながら生きている、現実の姿を見てもらえる本にしたかった。
--その結果、格差問題がテーマに……。
中国で起こっている問題は人間の社会に共通するものがかなりある。格差社会という意味で、中国のほうがもっとひどいが、日本もひとごとではない。
--有名になった「エイズ村」ではなく、河南省に何度も足を運んでいますね。
HIV問題は売血が契機となった。クローズアップされた時期が過去にあったが、深刻さは今も変わっていない。被害者が加害者に転落する事例も増えている。差別と偏見の中でどうしようもない人たちがたくさんいる。
--河南省の患者数は30万人説もあれば2万4000人説もあると。
基本的に責任問題になるので地方政府は隠す傾向がある。そのため数字を抑えることになる。患者本人も差別があるので自分からはなかなか言わないし、死亡した人を含んでいるかどうかなどでも、数字はかなり違う。
北京の地方の人が集まる「陳情村」にHIV患者が直訴しに来ても、それぞれ地方の役人が待機していて連れ戻されることもしばしばだ。