『貧者を喰らう国』を書いた阿古智子氏(早稲田大学国際教養学部准教授)に聞く
--格差の基本的な問題に戸籍制度がありますね。
農業戸籍と非農業戸籍、通称、農村戸籍と都市戸籍が中国にはある。日本のメディアはしばしば、中国政府がこの制度を改革するというニュースを流すが、これを真に受けてはいけない。
身分制度に等しいともいえる中国の戸籍制度では、親の戸籍で子どもの戸籍は決まる。その戸籍で医療も教育も年金も変わってくる。戸籍による待遇格差がこれだけ広がると、改革の決定権を持つ都市の既得権益層が戸籍を自由化するとは考えられない。
また中国は、コメ、トウモロコシ、小麦の主要食糧をほぼ自給している。それも世界の穀物消費量のほぼ5分の1を占めるだけに、食糧の確保は安全保障上とても重要だ。その生産担い手の農業戸籍を残し、無理やりでも農民をその土地に縛りつけておこうともするだろう。
--地域によって教育格差も大きいと。
教師の水準、カリキュラムだけではない。たとえば大学入試は地区別に合格者数が決められ、入試問題も違うし、合格点数も違う。大都市の子どもは入りやすい。それだけに、何としても都市戸籍が欲しいという人は結構いる。
--これからもフィールドワークを……。
中国社会は深く入り込まなければ、実情は見えてこない。定点観測を続けたい。
(聞き手:塚田紀史 撮影:田所千代美)
あこ・ともこ
1971年生まれ。大阪外国語大学中国語学科卒、名古屋大学国際開発研究科修士課程修了、香港大学でPh.D.取得。在中国日本大使館専門調査員、姫路獨協大学助教授、学習院女子大学准教授を経る。
新潮社 1470円
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