調べてみると、信濃川流域の新潟県津南町、利根川流域の群馬県沼田市などに、「日本一」をうたう河岸段丘があり、観光名所ともなっている。
しかし、地元キャラクターのデザインや名前にも段丘を採用している例は、ほかには見つからない。
地元の人々に接していても、「うちの家の段丘は、君の家の段丘より……」といった会話がごく自然に語られる。「小学生なら誰でも、段丘という言葉を知っているはず」と証言した人もいた。豊丘村の「段丘愛」の強さが伝わってくる。
研究会は古民家で
筆者は2019年6月、「豊丘村リニア活用戦略研究会」の招きで、初めて村を訪れた。研究会は下平喜隆村長の意向で2017年秋に発足し、村役場が事務局を務める。メンバーは村内の企業経営者や会社員、団体職員ら。約10人という少数精鋭だ。
研究会の会場は、築100年を超える古民家をリノベした「農家民宿ひがし」だった。段丘から伊那山地を東に上がった丘陵地にある一軒家を、埼玉県出身の壬生紘彰さんが1人で切り盛りしている。会社員生活を経て、もともとは祖父が住んでいた家に「孫ターン」し、2012年に独立したという。狩猟免許を取得し、自ら仕留めたシカのジビエ料理なども提供する。夏休みは自然体験を兼ねた子どもたちの宿泊でにぎわう。
外観はごく普通の民家だが、室内は天井がなく、広く大きく見える。いろりや神棚のある、伊那谷の暮らしと歴史が染み込んだ家での議論からは、一般の会議室では決して生まれない奥行きと温もりが生まれたように感じられた。
筆者は、北陸新幹線や北海道新幹線の沿線で起きたこと、起きなかったことを紹介した。また、観光や産業の振興にとどまらず、医療・福祉や教育など、村の暮らし全体に関する検討やイメージづくりを提起した。そして質疑を通じて、その半ばについては、メンバーがすでに検討を進めていることがわかった。
とはいえ、まだ「リニアのある暮らし」のイメージは描き切れていない。最も大きな理由は、「リニアは豊丘村を通るけれど通らない」ことだ。
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