村役場近くに喫茶店を構える黒田美佳さんも、移住者の1人だ。名古屋市に生まれ、レストラン関係の仕事を経て、2013年に地域おこし協力隊員として村に移り住んだ。退職後はそのまま定住し、起業したという。リニア研究会のメンバーでもある。
農家民宿ひがしと同様、やや古びた外観とは裏腹に、リノベされた店内はおしゃれな絵皿や切り絵が飾られ、若い女性が相次いで来店する。「村を盛り上げたい」という黒田さんの思いと営みが、若い世代の居場所づくりにつながっている。店の看板メニューは「だんQオムライス」。河岸段丘と川をイメージし、ふわとろのオムレツに特製ハヤシソースをかけた逸品だ。
水源への影響を懸念する声も
豊丘村は第2次大戦中、多くの満州開拓団員を送り出したことでも知られる。村内の寺院・泉龍院には、故郷に帰ることなく命を落とした人々を悼む観音像が建っている。
多くの悲劇が生まれる一方、無事に帰国した人々は、ジンギスカン食など、多様な生活スタイルと価値観、そして進取の気性をもたらした、という。同時に、「国策」や「国家的事業」に対する、懐疑的な視線も生んだようだ。リニアのトンネル工事が、地元の暮らしに及ぼす影響を気に掛ける人は少なくない。
大都市圏の子どもたちの民泊を受け入れている年配の女性の1人は「水が涸れるのではないか」と気をもむ。豊丘村には、段丘からわき出す地下水に水源を依存している家もあり、工事によって地下の水脈が絶たれることを懸念する。一方で、トンネル工事でわき出す水を新たな水源にできないか、と思案している人もいる。
村内に設置されるトンネルの非常口や変電施設、さらに工事で排出される土砂を置く「発生土置き場」の設置をめぐっても村が揺れている。
2016年には、JR東海が示した発生土置き場計画に住民から異論が起こり、結果的に計画が撤回された地区もあった。
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