長野県駅、リニアの「隣村」で住民は何を思う? 新駅ができる飯田市の東、豊丘村の将来

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壬生さんが経営する農家民宿ひがしにも波紋が及ぶ。目の前を通る村道を、やがて、発生土を積んだダンプが往来する見通しだ。静かな里山の環境が激変する。

豊丘村・戸中地区のトンネル非常口建設予定地=2019年6月(筆者撮影)

「自分もこれまで、誰かの犠牲のうえに造られてきた高速道路などを使ってきた。地元の皆さんが建設を望んでいるリニアに対し、反対運動を展開するつもりはありません。とはいえ、個人的にはリニアを造ってほしくはない。子どもたちを迎え入れ、自然を体験してもらう営みは、ダンプが行き交う環境下では続けられないから……。新しい生き方を探せ、という、神様の試練なのかもしれない。そう感じています」

壬生さんは、豊丘村で動植物と交わり、農作物を育てる暮らし、そして揺れる思いをめぐって、ブログをつづり続けている。

どんな未来をつくれるか

リニアへのさまざまな思いが交錯する中で、工事はきょうも進む。異論や不安を抱く人々の思いも受け止めて、どんな将来像を描き、暮らしをつくり直していくのか。

村内には空き家も増えているといい、「昔ながらの暮らし」をそのまま維持するのが困難であることは、研究会のメンバーも身に染みている。同時に、安易に村外の人や組織の力を頼るリニア活用法は、長い目でみれば、持続可能な地域づくりにつながらないことも、何度となく語り合ってきたという。

これまで訪れてきた整備新幹線沿線でも、小規模ながらここまで地に足のついた取り組みは、あまり記憶にない。

その後、2019年11月にも、講演で飯田市を訪れる機会があった。来場した豊丘村の研究会の方々と5カ月ぶりに再会し、近況を報告し合うことができた。「私たちが目指しているのは、リニア開業対策を通じた、地域経営のバージョンアップそのものだ」。あるメンバーはそう語った。

筆者自身、整備新幹線沿線に生まれ育ち、マイナスの影響を受けながらも新幹線に向き合ってきた1人だ(2019年5月23日付記事「リニア開業『8年後』、長野・飯田の歓迎と戸惑い」参照)。豊丘村の模索は、細くても長く支援し、見届ける価値がある、と感じたひと言だった。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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