日本の「ロケット産業」が国だけに頼れない実情 キヤノンも強力に推す民間ロケットが描く夢

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スペースワンを強力に後押しするのは子会社のキヤノン電子を通じて出資するキヤノンの御手洗会長だ。キヤノン電子はすでに自社の精密機器技術や光学技術を用いて超小型衛星を開発。2030年の売上1000億円という目標を掲げている。

祝賀会で「宇宙はこれから産業の時代になる」と語るキヤノンの御手洗冨士夫会長(記者撮影)

御手洗氏は「宇宙開発ははじめ国策だったが、これからは民間のイノベーションで発展に大きく寄与する」と強調。記者の取材には「出資している以上、もうけは期待できる。産業として成り立つと確信している」と自信を見せた。イプシロンロケットでエンジンの開発を担当したIHIエアロスペースが参加することで、技術的な確実性も高くなっている。

洋菓子を焼く「ホリエモンロケット」

ただ、民間初のロケット企業はスペースワンに限らない。元ライブドア社長で実業家の堀江貴文氏が創業したベンチャー企業、インターステラテクノロジズもその1つだ。同社は11月26日、今冬中に小型ロケット「MOMO」の5号機を北海道大樹町から打ち上げると発表した。

11月26日に行われた小型ロケット「MOMO」5号機の発表会(編集部撮影)

これまでは春から夏にかけて打ち上げてきたが、今度は極寒の北海道から打ち上げる。こちらも安価で小型のロケット打ち上げを高頻度で行うことを目指しており、稲川貴大社長は「2020年は5機ほど打ち上げたい」としている。

一風変わった取り組みも特徴だ。全国の中小企業などからスポンサーを募り、ロケット本体には目立つ広告を載せる。さらには燃料のエタノールにスポンサー企業が作った日本酒を混ぜたり、噴射時の炎で大阪の焼き菓子「たこパティエ」を焼き上げたりといった話題づくりに余念がない。堀江氏は「(宇宙ビジネスは)インターネットが普及してきた時期に似ている。マーケットはふざけたことに使われて初めて大きくなる。まじめな人だけでは大きくならない」と説明する。

インターステラテクノロジズはMOMOよりも2倍ほどの全長(約22メートル)のZEROというロケットも開発しており、商用化に関してはこちらが本命だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)もZEROとスペースワンの両方を宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)に指定し、技術協力している。JAXAの山川理事長は「(ZEROとスペースワン)どちらが優れているということではなく、どちらも成功するように支援する」と話す。

日本のロケット産業が今後も発展するためには官主導からの移行は欠かせない。ようやく動き出した形だが、その成否はこれからの数年にかかっている。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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