近鉄球団消滅15年でプロ野球は何が変わったか 球界分裂騒動で近鉄ファンは置き去りに…

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9月14日、楽天がプロ野球の球団経営に参入する意向があると発表したが、16日に臨時実行委員会が開かれ、合併凍結がないことが再確認された。この時点で、近鉄バファローズが事実上消滅することが決定的になった。

この間、合併反対、新規参入を巡って、日本プロ野球選手会がNPB(日本野球機構)と団体交渉を行ったが合意に至らず、18日、19日には日本プロ野球界で初めてのストライキが行われた。

現場を預かる近鉄の監督の梨田は、ストライキ決行の知らせを聞いて驚いた。

「もともとパ・リーグの問題だから、セ・リーグの球団の選手まで関わってくれるとは思わなかった。札幌ドームでの試合中に『ストライキ、やります』と聞いたんかな。パ・リーグのためによくやってくれたと、心の中で拍手を送りました」

プロ野球選手会がストライキを決行することに対して賛否はあったが、ファンに支持された。オーナー側も、それを無視できなくなった。

23日、労使間で、来シーズンからの新規参入に前向きな項目を含む7項目の合意書が調印され、そのあとのストライキが回避された。これによって、12球団による2リーグ制が維持されることになった。近鉄とオリックスが合併し、楽天が仙台に新球団をつくることで球界再編問題は幕を閉じた。

もし球界の長老オーナーたちが画策したように「10チームでの1リーグ制」へと移行したとしたら、プロ野球の人気はどうなっていたのか。当時の観客動員数を維持することも、ままならなかったはずだ。10球団が8球団になり、6球団まで減ることも考えられた。

「12球団でプロ野球」でも置き去りにされた近鉄ファン

2005年と2019年の観客動員数を比較してみよう。

<セ・リーグ>
2005年 年間観客数 1167万2571人  1試合平均 2万6650人
2019年 年間観客数 1486万7071人 1試合平均 3万4655人
<パ・リーグ>
2005年 年間観客数 825万2042人  1試合平均 2万0226人
2019年 年間観客数 1169万9891人 1試合平均 2万7203人

2005年に約100万人(105万0119人)だった広島の2019年の年間観客数は222万3619人。

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2005年、楽天の年間観客数は100万人に届かなかった(97万7104人)が、2019年には182万1785人まで増えている。各チームのトップ選手の年俸は4億円を超えているし、このほかにグッズ収入もある。

長老オーナーが命綱と考えた地上波でのテレビ中継は激減した。しかし、12球団による2リーグ制を維持し、各球団が営業努力を続けたことで観客動員数は増え、選手の年俸も上がっていった。

ストライキという荒療治を経て、選手にもファンの間にも「12球団でプロ野球」という意識が醸成されていった。クライマックスシリーズやセ・リーグとパ・リーグの交流戦の導入によって、観客動員数も増えていった。

そうして、置き去りにされたのが近鉄ファンだった。

近鉄バファローズと近鉄ファンという“人柱”のうえに、現在のプロ野球の繁栄があることを忘れてはならない。

(文中敬称略)

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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