乙武洋匡「義足歩行の挑戦はまだ終わってない」

誰かの役に立つかもしれないから頑張れる

――自動車にたとえると、今や衝突被害軽減ブレーキは軽自動車にも標準搭載されていますが、こうした最先端の技術はいきなり一般には広げられないから、コストをかけられる超高級車やハイパースポーツカーにまず搭載されてから、徐々に広がっていきます。これを乙武義足プロジェクトに置き換えても同じことが言えるのではないかと思いました。

まさにそのとおりです。先日マスコミ向けの報告会をした際、このプロジェクトリーダーの遠藤さんは、

「われわれはひとまず、“義足界のフェラーリ”を作っています。車の世界では、フェラーリが安全に走ることを確認した後、乗用車にもその技術を応用し、結果的にみんながその技術の恩恵に預かるということが起きます。同じように、われわれは義足の世界でもそれを目指しています」

とおっしゃいました。

膝のモーターに人工知能センサーを取り付けて、左右の足が歩行の際に曲げる力やくせなどを、パラメーターで調整できるようになっています。そのようなデータをとることにより、次の研究に役立て、プロジェクトで実装できるようになればベストですが、道のりはまだ遠いです。

手足がある人間とない人間が試行錯誤

――転倒しないようにバランスをとって立つことやスムーズに歩くことは、技術的にテクノロジーでカバーできる?

肉体を改造していくことが重要です。私が付けている義足は片方の重さが5キロ近くあるのですが、これを健常者にたとえると左右の足首に5キロの米袋をそれぞれつけて歩くのと同じイメージです。

当初は太ももを鍛えて筋力で義足を持ち上げようとしていましたが、すぐに筋疲労が起きてしまい、長距離は歩けませんでした。今取り組んでいるのは、上半身のストレッチです。上半身と下半身は連動しているので、歩いているときに上半身のひねりの動きを加えることで、足が自然と前に出やすくなります。

このようなメカニズムを、皆さんは自然と無意識に行っているから知りません。手足がある人間とない人間が試行錯誤しながら、問題解決していく過程には発見、面白さがありました。

日々のトレーニングの成果か乙武氏の体は引き締まっていた(撮影:今井 康一)

――『四肢奮迅』では「正直に告白すると、歩けるようになりたいわけではない。移動するだけなら電動車いすのほうが便利」という気持ちも吐露されていました。

歩きたいかどうかは別として、歩けていない自分が悔しいので、一つひとつクリアしてやるぞ、というモチベーションが快感になってきました。

課せられている課題をクリアできない自分が情けなくてカッコ悪いと思うので、負けず嫌いの性格でよかったと思います。漫画『キャプテン翼』に登場する松山君の「絶対やってやるぜ!」のような根性の塊が好きなのです。

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