乙武洋匡「義足歩行の挑戦はまだ終わってない」 誰かの役に立つかもしれないから頑張れる

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歩くことに「三重苦」を抱えながらも乙武氏が義足歩行に挑戦する意味は?(撮影:今井 康一)
1998年、早稲田大学在学中に上梓した『五体不満足』が600万部のベストセラーとなり、その後はスポーツライター、小学校教諭などを経て現在はタレントなどとしても活動する作家の乙武洋匡氏(43歳)が、新刊『四肢奮迅』を刊行した。生まれつき両手足がない「先天性四肢欠損」の彼が義足を履いて健常者と同じように「歩く」ことに挑戦する。そのプロジェクトの全容を記した内容だ。
「両膝がない」「両手がない」「歩いた経験がない」――。専門家に言わせると乙武氏の体は歩くことに対して三重苦だという。たとえば身長160センチほどに達する膝の付いた義足を付けて歩く乙武氏を健常者に置き換えてみれば、両手を縛って曲がる機能を持った竹馬に乗っているような状態だという。
四肢奮迅』はいくつもの困難にぶつかり、時にへこたれそうになりながらも乗り越えていく様を、乙武氏が自身の目線で描いている。両手足のない障害者であり、30冊ほどの著作を出してきた彼が義足歩行に挑戦し、世に訴える意味は何か。

「人間の膝ってよくできている」

――「乙武義足プロジェクト」は後にクラウドファンディングで民間からも活動資金を募っていますが、発足当初は文部科学省が所管する科学技術振興機構の研究プログラムから助成を受け、ソニーコンピュータサイエンス研究所が進める公的な取り組みとしてスタートしました。狙いはどこにあるのでしょうか。

義足に、人工知能センサーを組み込んだ膝のモーターが搭載されたのが、このプロジェクトの画期的な点です。この義足によって、膝のない人でも歩ける可能性が出てきたんですね。

「足がない」とひとくくりにされがちですが、「膝まではある」のと「膝もない」のとでは、大きな違いがあります。膝がある人であれば、膝から下を義足で補うことで歩けるようになるのですが、膝もない人は、いくら義足で補っても歩くことに対するハードルはかなり高いものがあります。

私が今回のプロジェクトに参加していちばん驚かされたことは、「人間の膝ってよくできている」ということです。曲がる構造になっているにもかかわらず、曲がりすぎることなく適度なところまで曲がり、自然とロックが掛かり、左右の足を伸ばしたり引いたりすることで歩行が行われます。

これは意識して脳から指令を送っているわけではありません。自然と足が作動しています。これを膝のない人間が機械で代替するとなると、とても難易度の高いことになります。今までの技術では再現できなかったけれど、ソニーコンピューターサイエンス研究所の遠藤謙さんの開発によって、人間の膝にかなり近い動きを再現してくれるようになりました。

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