乙武洋匡「義足歩行の挑戦はまだ終わってない」 誰かの役に立つかもしれないから頑張れる
「人間の膝ってよくできている」
――「乙武義足プロジェクト」は後にクラウドファンディングで民間からも活動資金を募っていますが、発足当初は文部科学省が所管する科学技術振興機構の研究プログラムから助成を受け、ソニーコンピュータサイエンス研究所が進める公的な取り組みとしてスタートしました。狙いはどこにあるのでしょうか。
義足に、人工知能センサーを組み込んだ膝のモーターが搭載されたのが、このプロジェクトの画期的な点です。この義足によって、膝のない人でも歩ける可能性が出てきたんですね。
「足がない」とひとくくりにされがちですが、「膝まではある」のと「膝もない」のとでは、大きな違いがあります。膝がある人であれば、膝から下を義足で補うことで歩けるようになるのですが、膝もない人は、いくら義足で補っても歩くことに対するハードルはかなり高いものがあります。
私が今回のプロジェクトに参加していちばん驚かされたことは、「人間の膝ってよくできている」ということです。曲がる構造になっているにもかかわらず、曲がりすぎることなく適度なところまで曲がり、自然とロックが掛かり、左右の足を伸ばしたり引いたりすることで歩行が行われます。
これは意識して脳から指令を送っているわけではありません。自然と足が作動しています。これを膝のない人間が機械で代替するとなると、とても難易度の高いことになります。今までの技術では再現できなかったけれど、ソニーコンピューターサイエンス研究所の遠藤謙さんの開発によって、人間の膝にかなり近い動きを再現してくれるようになりました。