コクヨを激怒させたぺんてる「密告書」の全内容 提携協議から一転して敵対的買収に発展

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文書にはまた、ぺんてる経営陣に近い与党株主が株主全体の3分の1いることを前提に、「K社による過半数取得を阻止するという観点からは当該対象株式のうち約18%を取得することにより、仮に残株式(の議決権行使委任状)をK社が取得したとしてもその議決権行使割合は50%を超えないことから、下限を18%とすることも考えられます」と、コクヨに過半数を握られないための取得率の下限まで提言している。

文書には作成者のクレジットとして、ASPASIO(東京都中央区、田中康之社長)という会社名が記されている。ASPASIOはファイナンシャルアドバイザリー業務を主とする会社で、長年、ぺんてるの財務コンサルを担ってきた。

上層部しか知りえない極秘文書を外部にリークするだけでなく、ぺんてるの意思決定に携わるコンサル会社、顧問契約する法律事務所、マスコミ対応を担うPR会社名まで記載された文書を、当のコクヨに送付しているところから推測するに、この文書はぺんてる上層部の何者かによる「密告書」であり「内部告発の書」といえそうだ。

コクヨは現経営陣の退陣を要求

その人物は、なぜそこまでのリスクを冒したのか。

コクヨの発表後、ぺんてるの和田社長が一部の幹部社員に向けて出したメッセージが出回っている。そのメッセージで和田社長は、プラス社との資本業務提携の協議を進めてきたことは事実であることを明らかにしている。社長みずから「密告書」の中身とコクヨの主張を認めた格好だ。

ぺんてるはもはや、プラス社との資本提携協議を隠さなくなりつつある。だが、ぺんてるが15日に発表したリリースや、その後、幹部向けに出したメッセージには、プラスとの提携を進めることによってどのようなメリットがあるのか、言及はない。

ぺんてるは非上場企業のため、株式には取締役会の承認がなければ売買ができない譲渡制限がついている。その壁を打開するため、コクヨは既存株主から株を買い取る際に株主総会の委任状もセットで取り付ける考えだ。ぺんてるが取締役会で譲渡を却下すれば、臨時株主総会を招集し、現経営陣を退陣させたうえで、新しい経営陣に譲渡を認めさせる。

コクヨのやり方を「強引すぎる」と見る向きもある。それでも、ぺんてるの上層部から「密告書」あるいは「内部告発の書」がコクヨに寄せられてしまうのは、現経営陣に確たるビジョンが見当たらないからではないか。

コクヨとぺんてる&プラス連合は、これから約1カ月間、株の争奪戦、プロキシーファイトを繰り広げる。そこでは買い取り価格だけでなく、市場低迷する文房具業界をこれからどうしていくのか、ビジョンこそが競い合われるべきだろう。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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