日韓関係が何度でも最悪になる「本質的要因」 何度謝っても終わらない日韓関係の深い溝

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本来、北朝鮮核問題は米朝首脳会談を軸に動いているわけだし、アメリカが日米韓の連携を維持する努力を行うべきなのだろう。しかしトランプ大統領は「アメリカ・ファースト」につながる取引的アプローチにしか関心はない。北朝鮮非核化問題は、仮に米朝首脳会談が一定の成果をあげるにしても、その実現は関係国の協力の下での相当長い時間を要するプロセスにならざるをえない。

もしも今後、米朝の実務者の折衝で非核化と平和体制構築のロードマップ的な考えが煮詰まっていくとすれば、そのときこそ日韓が能動的に協力していける好機となるのだろう。韓国の南北融和に向けた外交プライオリティーと日本の掲げる拉致・核・ミサイルの包括的解決の目標が合致する時が来ると思う。

首脳に大きな役割

日韓を再び正常な軌道に乗せるには、時間がかかるとしても抜き差しならないところに追い込まれないよう、危機管理は行う必要がある。

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安倍総理は前提条件を置くことなく北朝鮮金正恩委員長と首脳会談を行おうという呼びかけを行っている、ここはステーツマンシップを発揮し、前提条件なく韓国文在寅大統領との首脳会談を行ってみてはどうか。日韓関係の打開は間違いなく首脳の直接的関与を必要としている。

私は韓国の人と長年交渉してきたが、朝鮮半島の人々と一定のいい関係を作っていくためには、心のゆとりがなければいけないと思ってきた。「目には目を、歯には歯を」のように、言われたら言い返すということをやっていても、物事は前に進まない。多少腹が立つこともあるかもしれない。だが、そこに感情の行き違いがあるのは事実だとしても、日本は朝鮮半島の人々に犠牲を強いてきたという長い歴史がある。日本は反省の気持ちを忘れずに、もっと余裕のある交渉をすべきだと思う。

朝鮮半島とともに生きていくことなくして、日本の恒久的な平和は達成されない。そういう大きなピクチャーの中で物事を考えなければならない。韓国が求めているのは過去の歴史の償いというより、日本のみならず長年にわたって他民族に蹂躙されてきた歴史やその結果韓国の人々が持つに至った「恨」の感情を理解してほしいということだと私は思う。

同時に日本がいつまでたっても低姿勢をとっていくのは限度があり、韓国がルールを踏み外せば反応せざるをえない。未来を見れば日韓の共通利益は明白であろうし、だとすれば日韓双方が相手を理解する努力を倍加するということに尽きるのだろう。

田中 均 日本総合研究所 国際戦略研究所 特別顧問 前理事長

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たなか・ひとし / Hitoshi Tanaka

京都市生まれ。(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー。1969年京都大学法学部卒業。外務省に入省後、1972年にオックスフォード大学修士課程(哲学・政治・経済)修了。北米局北米第二課長、アジア局北東アジア課長、在英大使館公使、総合外交政策局総務課長、北米局審議官、在サンフランシスコ総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より外務審議官(政務担当)を務め、2005年退官。東京大学公共政策大学院客員教授(2006~18年)。著書に『外交の力』(日本経済新聞出版社)、『プロフェッショナルの交渉力』(講談社)、『日本外交の挑戦』(角川新書)、『見えない戦争』など著書多数。

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