株価不安の今、「有価証券報告書」が実に面白い 内容寒いキーエンス、火葬場がお宝の廣済堂
ちなみにほかの時価総額上位10位以内の企業のうち、会計基準が日本基準のままなのは、7位の三菱UFJフィナンシャルグループのみ。トップのトヨタ自動車以下、百数十ページ~二百数十ページがスタンダードである。国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(SEC)の場合、日本基準に比べてページ数が多くなりがちであることを割り引いても、キーエンスの62ページというのは極端に少ない。
しかも内容を見ると、説明意欲の低さを実感する。象徴的なのは「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」だ。割いている行数は見出しを含めてわずか12行。海外事業の拡大などにサラッと触れただけで具体的な中味は乏しく、キーエンスの有報が現在のスタイルになった2001年当時から、ほぼ変わっていない。
一方、それと対象的なのは、丸一鋼管だ。大阪の鉄鋼メーカーで、溶接鋼管では国内首位と地味で堅実な会社だ。時価総額は3000億円弱。全上場会社中の順位は400番目あたりに位置する。
何より注目すべきは、日本証券アナリスト協会が毎年公表している、優良ディスクロージャー企業ランキング上位の常連であること。2019年3月期の有報は、総ページ数こそ97ページと、さほど多くはない。しかし、業績の説明は中期計画と絡めて投資家が知りたいことを過不足なくきちんと説明しており、対処すべき課題も個別かつ具体的である。
熱量が高い、熱すぎるオーケーの記述
実務的に有報は金融庁のEDINETで検索できるのだが、実は上場していなくても有報を提出している企業はある。
首都圏地盤の食品スーパーを運営するオーケーは非上場ながら、かつて顧客を対象に公募増資を実施、50人以上を対象に有価証券の募集・売り出しをしたため、有報の提出義務を負っている。
2019年3月期の有報で記載されている、対処すべき課題は秀逸だ。「『競合他社よりは良い』と心の隅で自らを慰めているようでは、国際競争には勝ち残れません。」「市場を熟知して商品を見直し、お客様に損をさせない。肝に銘じて勝つ道を求めて参ります。」などなど、一文一文に血が通っており、実に熱量が高い。
既存店実績など必要な数字をしっかり折り込んだうえで、終わった決算期の振り返りに加えて、次期業績予想も明示。認識している課題と対策が、平易な言葉で説明されている。個人投資家はもちろん、プロの機関投資家でも歓迎するであろう、お手本となりうる有報なのだ。
1936年開場の名門ゴルフ場「小金井カントリー倶楽部」の運営会社である小金井ゴルフも、預託金制度でなく株主会員制ゆえに50人以上の株主がいるため、非上場ながら有報の提出会社。ほかにもサントリーホールディングスや森ビルをはじめ、有報を提出、公表している非上場企業はある。
有報には決算短信の貸借対照表ではわからない項目も載っているのがメリットだ。例えば「主要な設備の状況」は、その会社が持つ資産の含み益を知る手がかりにもなる。
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