欧州では、統一したCSRの定義があり、政策としてすでに実施されている。欧州委員会が2011年10月に発行した「CSRに関する欧州連合新戦略」によれば、CSRとは、「企業の社会への影響に対する責任」と定義されている。具体的には「株主、広くはそのほかステークホルダーと社会の間での共通価値の創造(CSV)の最大化」と、「企業の潜在的悪影響の特定、防止、軽減」の2つを推進するとしている。法令順守や労働協約の尊重は前提条件と位置づけ、「社会」「環境」「倫理」「人権」「消費者の懸念」を企業活動の中核戦略として統合するというものだ。
何より重要と位置づけられているのは、企業活動の中でCSRを意識して形成する際の「過程」である。これは、CSRを計画的に進め、場当たり的に対応するのではないことも意味している。日本ではステークホルダーに対する意識が低く、誰が自社のステークホルダーかを特定できていないことが多い。だが、欧州では、自社の特定したステークホルダーとの密接な協働が必要とされている。このようなCSRに対する基本的考え方が議論され、欧州全体としての計画が推進されているのである。
「CSRは古い、時代はCSV」は、間違い
CSVとは、Creating shared value :共通価値の創造のことで、2011年1月にハーバード大学マイケル・E・ポーター教授らによって提唱された。「社会問題を企業の事業戦略と一体のものとして扱い、企業の持つスキル・人脈・専門知識などを提供しつつ、事業活動として利益を得ながら、社会問題を解決、企業と社会の双方がその事業により共通の価値を生み出す」のがその趣旨である。
CSVに関連して、「CSRはもう古い、時代はCSVだ(CSR→CSV)」といった論が聞かれることも少なくない。しかし、ここで先ほどの欧州のCSRの定義を再確認してもらいたい。CSVは主に「社会に対するポジティブな影響を大きくする」という部分にしかすぎない。「CSR→CSV」との考え方は、欧州のCSRの定義で推進するとされた前半部分を実施するだけで、それに続く「企業が与える悪影響を軽減する」という部分、つまり人権への悪い影響など、企業が与えるネガティブな要素が無視されることになる。
また、マイケル・E・ポーター教授らの論文の中で定義されたCSRは、アメリカ国内の一般的なCSRのイメージである「慈善事業」や「寄付活動」、「企業利益とは無関係」というものである。これは、日本国内でのイメージとも類似している。だが、世界のCSRを牽引する欧州のCSRの定義とは同一ではない。もしCSVのみを実施するならば、本来のCSRが持つ多くの重要な概念が置き去りにされることになるので注意が必要だ。
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