「中銀デジタル通貨vs.リブラ」の構図が鮮明に 「現状改善は既成権力が行う」という意思表示
10月8日に開催されたEU経済財務相理事会(ECOFIN)でEU(欧州連合)は暗号資産(仮想通貨)にかかわる対応策を議論し、規制や監督上の諸リスクが完全に解消されるまでは域内での発行を認めない方針を公表した。今回は「ECOFINと欧州委員会のステーブルコインに関する共同声明の草案」として公表されているが、12月5日のECOFINで正式に承認されれば「リブラを筆頭とする暗号資産はEUでは使わせない」ことが公式方針として固まる。
もっとも、ここまでは10月のG20(20カ国地域・財務相中央銀行総裁会議)と歩調を揃えたものだ。10月のG20では以下のようなプレスリリースがあった。「G20が安全と思うまで発行は許さない」という趣意だ。
しかし、今回、ECOFINが公表した草案の後半には「ステーブルコインの登場は、金融市場や消費者が抱く利便性、迅速性、効率性、経済性への期待に応えるために不断の改善が持つ重要性を浮き彫りにしている」と具体的な問題意識も示され、「ECBやその他規制当局が決済システムのデジタル化を一段と推進していくものと考えている」、「中央銀行が関連する当局と協力して中銀デジタル通貨(CBDC)のコストとベネフィットを評価し続けて行くことを歓迎したい」といった提案めいた一文も見られている。
民間主導の暗号資産をけん制した上で、「現状改善をけん引するのは中銀を筆頭とする既成権力である」という意思表示だ。
出るべくして出てきた提案
もっとも、こうしたEUの動きは出るべくして出てきたものだ。フェイスブックが今年6月にリブラ白書を公表して以降、「先進国全体で考えるべき」という空気はあった。
9月13日にフィンランドで開催されたユーロ圏財務相会合では、ドイツ、フランスが「潜在的な公的デジタル通貨の解決策にまつわる諸課題に関し、ECBが作業を加速させることを促していきたい」とのは共同声明を発表していた。「欧州として公的デジタル通貨を発行する」というのは既定路線であり、それが経済や金融にまつわるEUの最高意思決定機関であるECOFINで議論、承認される流れにステップアップしてきたというのが現状の整理である。
G7を主軸とする主要国の政策当局は、現行の決済システムがコストや効率性の面に照らして改善の余地があることを公に認めてきた経緯がある。
例えば今年9月、メルシュECB(欧州中央銀行)理事は『Money and private currencies : reflections on Libra(貨幣と民間通貨:リブラへの熟慮)』とリブラを主題とする講演を行って、「リブラが目指すようなクロスボーダー送金のコスト低下やその他効率性の追求については既存の決済システムが修正されていく中でも実現できる」と述べている。わざわざリブラのような危うい代物に乗らずとも現行の金融当局が現状を分析し、検証し、修正すればそれで事足りるという立場だ。
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