人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか 斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

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水野:ええ。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させるというのが資本主義の命題ですが、現代の資本主義は利潤を獲得できない、危機的な状況です。

水野和夫(みずの かずお)/1953年生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著作に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(以上、日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(以上、集英社)など(撮影:露木聡子)

利潤率とほぼ一致する長期国債の利回りを見てみると、日本の10年国債は1997年以降、ほぼゼロの金利です。いやゼロも下回り、日本だけでなく独仏の長期国債もマイナス金利に陥ったりもする。日独仏では、利潤の獲得が極めて困難だということです。

斎藤:しかし、利潤率の低下があるからこそ、資本はかえって社会に矛盾をまき散らしながら利潤を求め、人間の生活と自然環境の両者をこれまで以上に破壊しています。

水野:資本は、天災や惨事に便乗してまで利潤を得ようとするし、1%の人々は99%の不幸にお構いなく、利益を掠め取ろうとしています。ナオミ・クラインが「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」と呼んだ状態ですね。

斎藤:世界がどんな危機を迎えようが、資本はそれを糧に生き延びようとし、資本主義は形を変えてきました。資本主義の可塑性・弾力性はすさまじい。

実際、これまでさまざまな恐慌を乗り越えてきたし、戦争があってもそれをビジネスチャンスにする。冷戦が崩壊すれば、東側に新しい市場を見いだした。そうやってあの手この手を使って、ヴォルフガング・シュトレークが言うように、「時間稼ぎ」をして、もうけを生み出してきました。

それを踏まえると、資本主義が自動的に終わるのか、という点は疑問に思うのです。むしろ、資本主義を終わらせて、次の社会を自分たちの手で作っていかなくてはなりません。現代では、資本の論理と人間らしく生活する論理とがどんどん乖離していることが誰の目にも明らかになっている。だから、資本主義を終わらせる方策を見つけ出そうと模索することが、大事なのです。

資本主義の次の社会を構想する

斎藤:では、主体的に資本主義を終わらせるとしたら、どうすればいいのか。そしてその後、どのような社会を構想すればいいか。水野さんは1つのモデルとして、「閉じた経済圏」における「定常社会」、つまり「定常経済圏」というアイデアを提出しています。この定常社会とは、具体的にどんなイメージですか。

水野:経済的な点から言うと、ゼロ金利、ゼロインフレ、ゼロ成長が定常社会の必要条件ですが、日本はこれをクリアしているんですね。それに加えて、なんとか財政均衡を実現する必要があり、さらに重要なハードルが、エネルギー問題です。

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