人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか 斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

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斎藤:資本を社会化するイメージですね。私もその方向がいいと思っています。

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『未来への大分岐』で議論したマイケル・ハートも同様に、資本の社会化の重要性を強く訴えていました。ギリシャ元財務相で経済学者のヤニス・バルファキスも、ベーシック・インカムではなく、ユニバーサル・ベーシック配当というアイデアを提出しています。これは、あらゆる企業の株式の一部を社会化し、配当を国民全員に分配するというものです。つまり市民、国民すべてを株主とみなすわけですね。

ベーシック・インカムも1つの手ですが、私は、彼のアイデアのほうに魅力を感じています。これからますますオートメーション化が進んで、機械が勝手にモノをつくったり、サービスをしたりするようになるわけですよね。

機械が勝手に生み出したモノやサービスを、「これはオレの物だ」と独占するのは、よくよく考えると非合理なわけです。そのモノ・サービスを生み出すための機械や情報は、大勢の人の知識や情報が関わっている。だったら、生み出されたモノやサービスを社会化して、共有の財産としてみんなでシェアしようと。

地域性に密着させた社会へ移行

水野:できればそこに、地域性を強く入れたいというのが私の考えです。日本でいえば、現在は明らかに東京一極集中になっていますから、地方分権を進めて、できるだけ地域に密着した教育機関や企業、金融機関を充実させていくべきでしょう。

大きな企業は会社分割して、地域ごとに分社化する。地域のなかでなるべく自給自足できるような形で、現物のベーシック配当をすれば、「より遠く、より速く、より合理的に」という近代システムを脱して、「より近く、よりゆっくり、より寛容に」生きる社会に移行することができますから。

斎藤 はい。そのようなポスト資本主義の構想が、<大分岐の時代>に求められているのです。(後編に続く)

(構成:斎藤哲也)

斎藤 幸平 東京大学大学院准教授

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さいとう・こうへい / Kohei Saito

1987年生まれ。専門は経済思想・社会思想。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』堀之内出版)によって、「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。50万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)は、「新書大賞2021」を受賞。「アジア・ブックアワード」で「イヤー・オブ・ザ・ブック」(一般書部門)に選ばれた。

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水野 和夫 法政大学教授

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みずの かずお / Kazuo Mizuno

1953年、愛知県生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。早稲田大学政治経済学部卒業。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。著書に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)、『次なる100年』(東洋経済新報社)など多数。

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