100gで1万円!高級茶葉農園の並外れた情熱 繊細な「茶葉づくり」の常識を破り続けた
ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……。激しい動悸と息切れが止まらない。そのとき、僕は静岡駅から車で90分ほどの場所にある静岡市葵区玉川の山の中にいた。数メートル上で、息ひとつ乱れていない小杉佳輝が、苦笑しながら「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
およそ15分歩き、獣除けに張られた青いネットをくぐると、そこには日の光を受けてエメラルドグリーンに輝く茶畑が広がっていた。標高800m、俗世から隔絶されたこの場所こそ、100g1万円の価格がついている日本一の高級茶「東頭」の茶園だ。
東頭は、茶師をしていた佳輝の祖父、築地郁美さんとその息子で佳輝の叔父にあたる、築地勝美さんが山を切り拓いてつくり始めた。言い出したのは勝美さんだった。
勝美さんは山の標高800m、南向きの斜面に茶園を作ろうと考えたが、それは常識外れだった。一般的に、茶の樹は標高600mを超えるとうまく育たないとされており、東頭を独占販売している原料茶メーカー「葉桐」の葉桐清巳社長が、勝美さんと一緒に静岡県の茶業研究センターに相談に行ったときも、「難しい」と言われたという。
葉桐社長によると、それでも勝美さんが茶園開発に挑んだのには理由がある。築地家がもともと所有していた茶園は標高350m付近にあり、標高800mに位置する東頭の茶園とは気温が4、5度も異なる。そうなると茶の樹の生育速度も変わるため、収穫の時期をずらすことができた。その分、じっくりと栽培に取り組むことができるというわけだ。
日本茶の「シングルオリジン」の先駆者
ここで、日本茶の世界について触れよう。まず、日本で栽培されているお茶の品種の75%は「やぶきた」という品種である。なぜ1つの品種がここまでシェアを占めているかと言えば、高品質で育てやすいから。
そして、一般的に売られている茶葉は売り物になる過程で均一品質、大量生産、安価提供を実現するために、軒並み「ブレンド」されている。もちろん、ペットボトルのお茶も同様である。
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