ユヴァル・ノア・ハラリが見通す「雇用の未来」

AIは人間へ新しい仕事を創出するのか?

そのうえ、残っている人間の仕事も、将来の自動化の脅威をいつまでも免れる保証はない。なぜなら、機械学習とロボット工学は進歩し続けるからだ。

スーパーマーケットのレジ係の職を失った40歳の人が超人的な努力をしてドローン操縦士になれたとしても、10年後には、再び新たな技能を身に付けなくてはならないかもしれない。その頃にはドローンの操縦も自動化されている可能性があるからだ。

このような絶え間ない変動のせいで、組合を組織したり、労働権を確保したりするのも難しくなる。今日でさえ、先進諸国の新しい仕事には、何の保証もない臨時のものや、フリーランスのものや、1回限りのものが多い。急激に現れ、10年もしないうちに消えていく職種で労働組合を組織することなど、どうしてできるだろうか?

同様に、人間とコンピューターが協力する「ケンタウロス」型のチームも、生涯に及ぶ提携関係に落ち着かずに、人間とコンピューターの絶え間ない主導権争いになる可能性が高い。シャーロック・ホームズとワトソン医師の2人組のように、人間だけから成るチームはたいてい、何十年も続く恒久的な階層制と手順を作り上げる。

だが、IBMのワトソンのコンピューターシステム(2011年にアメリカのテレビのクイズ番組「ジェパディ!」で優勝して有名になった)と組んだ人間の探偵は、どの決まりきった手順もすぐ崩れ、どの階層制も革命を招くことを思い知らされるだろう。きのうの相棒は、明日には上司に変わっているかもしれないし、規約やマニュアルは毎年すべて書き直さなくてはならなくなる。

コンピューター vs プログラムという世紀のチェス対決

チェスの世界を詳しく見てみれば、長期的にはどういう状況になりそうかがわかるかもしれない。ディープ・ブルーがカスパロフを破ってからの数年間は、たしかに人間とコンピューターの協力が盛んだった。とはいえ近年は、コンピューターはあまりにチェスが強くなったので、人間の協力者は価値を失った。間もなく、完全に無用になりかねない。

2017年12月6日は重大な節目になった。コンピューターがチェスで人間に勝ったわけではなく(そんなことなら、少しも目新しくはなかった)、グーグル傘下のディープマインド社が開発したコンピュータープログラムのアルファゼロが、ストックフィッシュ8を負かしたのだ。

ストックフィッシュ8は2016年のコンピューターチェス選手権のチャンピオンだった。ストックフィッシュ8は、チェスの分野で何世紀にもわたって蓄積してきた人間の経験にも、数十年にわたるコンピューターの経験にもアクセスできた。そして、毎秒7000万のチェスの局面を計算できた。

それに対してアルファゼロは、そうした計算は毎秒8万しかしなかったし、開発した人間たちは序盤の定跡さえも含めて、チェスの戦略をまったく教えなかった。その代わりアルファゼロは最新の機械学習原理を使い、自分自身と対戦することで、チェスを独学で習得した。

それにもかかわらず、新参のアルファゼロはストックフィッシュと100回対戦して、28勝72引き分けだった。一度として負けなかった。アルファゼロは人間からは何一つ学んでいないので、勝敗を決めた手や戦略の多くは、人間の目には型破りに映った。仮に紛れもなく天才的とまでは言えないにしても、創造的と考えていいだろう。

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