ユヴァル・ノア・ハラリが見通す「雇用の未来」

AIは人間へ新しい仕事を創出するのか?

1997年にIBMのチェス専用スーパーコンピューターのディープ・ブルーがチャンピオンのガルリ・カスパロフを破った後も、人間はチェスをするのをやめなかった。

それどころか人間のチェスの名人たちは、AIトレーナーのおかげで、かつてなかったほど腕を上げ、少なくともしばらくの間は、「ケンタウロス」と呼ばれる人間とAIのチームが、チェスでは人間とAIのどちらよりもいい成績を残した。AIは同様に、史上有数の探偵や銀行家や兵士を育て上げる手助けをしうる。

とはいえ、こうした新しい仕事はみな、1つ問題を抱えている。おそらく、高度な専門技術や知識が求められ、したがって、非熟練労働者の失業問題を解決できないのだ。

人間のために新しい仕事を創出するよりも、実際にその仕事に就かせるために人間を訓練するほうが難しいという結果になりかねない。過去に自動化の波が押し寄せたときには、人々はたいてい、それまでやっていた、高度な技能を必要とせず、同じことを繰り返し行う仕事から、別の、やはり単純な仕事に移ることができた。

1920年に農業の機械化で解雇された農場労働者は、トラクター製造工場で新しい仕事を見つけられた。1980年に失業した工場労働者は、スーパーマーケットでレジ係として働き始めることができた。そのような転職が可能だったのは、農場から工場へ、工場からスーパーマーケットへという移動には、限られた訓練しか必要なかったからだ。

必要とされる技能がなければ「無用者」に

だが2050年には、ロボットに仕事を奪われたレジ係や繊維労働者が、がん研究者やドローン操縦士や、人間とAIの銀行業務チームのメンバーとして働き始めることはほぼ不可能だろう。彼らには必要とされる技能がないからだ。

第1次世界大戦のときには、何百万もの未熟な徴集兵を戦場に送り込むのは道理にかなっていた。敵の機関銃に向かって突進し、何千人という単位で戦死するのだから、個々の兵士の技能はほとんど問題にならなかった。

今日では、アメリカ空軍はドローン操縦士とデータ分析員が不足しているのにもかかわらず、スーパーマーケットの仕事が務まらずに辞めた人を雇って空きを埋めようとはしない。未熟な新人に、アフガニスタンの結婚披露宴をタリバン幹部の会合と勘違いされるわけにはいかないからだ。

したがって、人間のための新しい仕事が出てきても、新しい「無用者」階級の増大が起こるかもしれない。私たちは実際、高い失業率と熟練労働者の不足という、二重苦に陥りかねない。多くの人は、19世紀の荷馬車の御者(彼らはタクシーの運転手に鞍替えした)ではなく、19世紀の馬(しだいに雇用市場から排除された)と同じ運命をたどる可能性がある。

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