安倍首相の提唱する『日本版NSC』は実現できるか?

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日本版NSCの3つの課題

 しかし、そのような必要性がありながらも、わが国にNSCを設置する場合、いくつかの課題が存在します。

1.大統領制と議院内閣制の違い

 米国大統領は、直接選挙によって国民から選出された行政府のトップであり、国家元首です。この大統領を補佐する機関としてアメリカNSCは存在します。一方、わが国は議院内閣制を採っており、首相は国民ではなく国会に対して責任を負います。日本版NSCは憲法上どのような意味を有するのかについての議論が必要となります。

2.外務省と防衛庁との機能分担

 「日本版NSC」が外交情報収集と外交政策(法案作成・条約交渉)の立案といった機能を果たす場合、従来それらを行ってきた外務省や防衛庁から、どのように新組織である日本版NSCへと権限委譲を行うかという線引きが難しい。民間企業であれば、売り上げが少ないという理由などで事業部をすぐに縮小できますが、政府組織はなかなか変えることができません。たとえば、わが国のGDPの数%しか担っていない農林水産省がまだ存在することを見ても、わが国の政府組織の改変がいかに困難かを理解いただけると思います。

3.日本版NSCの権限肥大化・秘密主義化

 米国NSCで起きた問題として、ニクソン政権において見られたような、NSCの権限の肥大化があります。NSCが独断で外交政策を進めたため国務省と衝突し、アメリカの外交政策が複線化したと聞いています。また、NSCの安全保障政策が秘密化され、世論が外交政策に反映されないということも発生しています。こうした問題の萌芽は、すでに首相補佐官が国会で答弁しないという形で発生しています。実際に海外の要人と交渉をしている小池補佐官が、国会での情報公開とチェックを受けずに政策を進める危険性がすでに生じてきているわけです。このような問題を顕在化させないためには、「首相による明確なNSCへの関与」と「国民に対する政治的意思の表明」が必要です。

 私は、アメリカの補佐官制度でなく、イギリスの補佐官制度を真似てはどうかと考えています。

 従来、イギリスの首相官邸は政務室、秘書室、報道官室、政策ユニットで構成されていましたが、ブレア首相は、政策ユニットの人数を6,7名のスタッフ体制から民間人を含めた20名程度の体制にまで増員し、広報機能も強化しました。政策ユニットは、担当省庁を持ち、官邸での政策会議を補佐し、省庁の会議にも参加して官邸との意見調整を行います。

 このような仕組みをわが国に導入すれば、よりダイナミックな政策執行が可能となるはずです。小泉首相は、正直なところ、「官」主導だったと思いますが、安倍首相には、ぜひとも「官邸」主導で政策を実現してもらいたいと思っています。

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など

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