柴山:MMTでは、完全雇用を実現する政策として「就業保証プログラム」を推奨していますね。それによって失業は減りますが、供給力が増えるかどうかはわからない。
中野:供給の分析が不十分というのはケインズの理論の欠陥でもあったんです。僕はMMTをめぐる議論に欠けているのはこの視点だと思っています。MMTを批判する人たちは供給力の議論を欠いたまま、目先の需要の増減だけ考えて、「財政支出増でインフレが起きる」という議論をしている。
移民の自由とJGP
柴山:MMTは現代貨幣システムの理論としてはよくできているんですが、政策提言については実現が難しいのではないかと感じるところが多い。典型がJGP、すなわち「就業保証プログラム」ですね。
佐藤:『MMT現代貨幣理論入門』は全10章ですが、7章と8章の間に大きな溝があります。7章までは一般的な貨幣理論の話で、非常に面白い。ところが8章以後はもっぱら「完全雇用と物価安定のためにJGPをすべきだ」という話になる。JGPはMMTから導き出しうる政策の1つにすぎません。その結果、議論が普遍性を失い、スケールダウンしてしまっている。
柴山:政府支出を安定化させる目的でJGPを導入するというアイデアは面白いんですが、具体的な制度設計という段になると問題がありますね。例えば、移民の問題をどう考えるのか。ここを緩くしてしまうと、好景気の国に失業者が殺到してしまうので、政府支出は減るどころか増えてしまう。そういう問題については、この本で触れられていない。
佐藤:わが国ではMMTについて、「政府の役割を重視しているからナショナリズム的な理論だ」という受け止め方が強い。けれども欧米のMMT論者は、内心ではグローバリズム的な理想を信奉しているふしがある。
レイと並ぶMMTの論客、ステファニー・ケルトンが来日したとき、「すべての国がJGPをやったら、各国内で雇用が確保されるから、労働者が外国に行く必要はなくなりますね」と聞いた人がいたそうです。理論的にはそのとおりなんですが、ケルトンは何とも渋い顔をしたとか。
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