MMTをめぐる議論で欠けている「供給力」の視点 完全雇用をめざす「就業保証プログラム」問題

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柴山:財政均衡を目指すと、かえって財政赤字を悪化させてしまうわけです。現に日本では平成の30年間、消費増税のたびに財政赤字が増えてきた。

ただこれは恒等式なので、どちらが原因でどちらが結果かはわからない。だから逆に解釈される可能性もありますね。「民間が投資を増やさないから財政も黒字化しないし、デフレからも脱出できないんだ」というふうに。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など。最新刊は『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)(写真:佐藤 健志)

佐藤:景気が悪かろうと、家計が貯蓄せずに消費を増やし、企業も借金して投資を増やせば、緊縮財政のもとでもデフレ脱却は可能でしょう。しかしそれは、民間部門に非合理的な行動を取れと要求するにひとしい。言い換えれば、できるわけがない。

中野:おっしゃるとおり、デフレのときには企業は、合理的な判断として、支出を減らして貯蓄を増やそうとするんです。

一方、政府はデフレでも支出できる。だからデフレから脱出するには、政府が支出を増やさないとどうにもならない。

:財政支出の拡大でデフレから脱出できるのでしょうか。

島倉:こんなことを言っても誰も信じないでしょうが、私は日本政府がバカみたいに財政支出を拡大して民間所得が急増すれば、企業の投資が活発化して、逆に財政は黒字になると思っています。実際、高度成長期はそんな時代でしたから。

財政支出はインフレの原因にはならない

柴山:MMTの議論でもう1つ面白かったのは、商品貨幣説を否定したところです。商品貨幣説では貨幣が数ある商品の一つにすぎないと考える。すると、その価値は需要と供給のバランスで決まることになる。「貨幣の供給を増やせばインフレが起こる」というマネタリズムの考え方も、ここから来ている。

ところがMMTでは貨幣は商品ではなく債権債務の記録である、と考える。銀行が信用創造するか、政府が債務を増やせば貨幣は増えていくけれども、貨幣量そのものは物価と直接的な関係はない。インフレは、例えば政府の過大な支出が原因で、実物資源の需給が逼迫することによって起きるという、ここがMMTをめぐる議論の焦点だと思うんです。

中野:よく「財政支出のやりすぎでインフレになったら、どうやって止めるんだ」と言われるんですが、財政出動のせいでインフレが止まらなくなったという例は、実はほとんどない。そんなことが起きたのは戦争のときやその直後ぐらいです。

インフレとしてイメージされるものに、70年代の狂乱物価があります。このときはインフレ率が一時2桁台に達しましたが、3年ぐらいで1桁台に戻っています。対処としては金融の引き締めをやり、労働組合と話をして賃金が上がらないよう交渉し、もう1つは予定していた公共投資を後ろ倒しにした。

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