万年筆のプロ「ペンドクター」を知っていますか

国内にたった十数人と少なく、初の女性

赤いスポイトは、各社の空のカートリッジの端を切り、市販のスポイトを縛り付けた手作り掃除グッズ(撮影:与儀達久)

ペンドクターとしての知識や技能は、お客さん一人ひとりから学んできたと言う。「調整の作業で、目に見える要素はひと握りなんです」と宍倉さん。預かったペンを紙に走らせてみて、その声を聞いていく。お客さんが使う姿を見て、その使い心地や好みを洞察する。

「ペンは、気持ちを乗せるもの。意識せずに気持ちよく使えることがすべてです。メーカー各社、基準としている書き味があり、メーカー修理ではその基準に引き戻す調整を行いますが、『書きやすさ』は人それぞれ。

万年筆の重みだけでインクがたっぷり出てくるような、ヌルヌルとした書き心地が好みの方もいれば、出方を抑えて、カリカリ硬い書き味が好きな方もいる。ペンクリニックでは、悩みや好みをその場でうかがい、書き方のクセや紙に対する角度も見て、その方のベストに近づけていきます」

調整できるのは「8割」まで

調整できるのは、それでも8割までという。残り2割は、オーナーが使い込んで、自分だけの書き心地を育てる余白だ。「ペン先を研げば太字を細字にすることもできますが、夫や妻を整形手術しようとは思わないでしょう? ペンにも本来の持ち味がありますよね」 。

ペンドクターとしての道具。ゴム板にはラッピングペーパーを貼り付けて、艶出し用に使用(撮影:与儀達久)

「インク沼の住人」を公言し、 「現役ドクターの中で、誰よりも使っている自信があります(笑)」という文具マニア。国内外のインクや紙モノの情報に目を光らせ、休日には友人たちと連れ立って地方へ「遠征」も。

万年筆を使うことに自らどっぷりのめり込んでこそ、蓄積される経験も大きいようだ。お話をうかがった半月後、丸善日本橋店で開かれたペンクリニックで宍倉さんに再会した。開店前から列ができ、常連さんも多い様子。愛用のペンがすらすらと書けるようになった帰りがけ、誰もがふっと笑顔になっている。万年筆は、やはり心もちと深く結びついている。

(文/松丸裕美子)

《PROFILE》
宍倉潔子(ししくら きよこ)
/横浜市出身。地元の百貨店に勤務し、文房具売り場に配属されたことがきっかけで、万年筆に興味を深める。2006年株式会社サンライズ貿易入社。2009年よりペンドクターとして活躍。
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