「新R25」の29歳社長が味わった補欠という挫折 サイバーエージェント新卒入社、子会社社長に

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26歳で代表取締役になった須田には何が見えているのか。

「社会人になっても組織で何かをするということは、大学時代に野球部で経験したことと大きな違いはないと感じています。会社を経営したり、マネジメントしたりするうえで、活躍の場がある人のことはあまり気にしていません。

だけど、日が当たらなくなっている人や成果が出なくて立ち止まっている人がどのような感情でいるのか、『自分事』として考えています。それは、僕が大学の野球部で補欠というか、圧倒的な補欠……補欠以下だったから(笑)」

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スポーツで全戦全勝のチームがないように、社会で負けない人はほとんどいない。

「社会人になると、競争社会の中で他社との競争、他人との比較ばかりになります。どちらかと言うと、負けることのほうが多いと思っていますが、大切なのはビハインドの状況でどう挽回するのか、粘るのか、どうやって逆転するのか、ですよね」

順風満帆のように見える須田も失敗ばかりだと言う。

「ずっと、ギリギリのところでやっています。これまで、ピンチしかないです(笑)。僕の取り柄は、粘り強さと、しんどいときでも折れないところ。たぶん、評価されているのは、スキルではありません。野球人生で培ったもの、不利な状況で耐える力、失点を最小限に食い止める粘りじゃないですか」

目標は「凡人のいい事例」になること

社会人になって6年目。須田が経営を任されるようになってまだ3年しか経っていない。

「僕には、それほど大きな目標はありません。1番大きいものは、『凡人のいい事例』になること。普通の人が目指しやすい、ベンチマークの対象でありたい。僕みたいな凡人が世界を広げていければ、希望を持てる人がもっと増えるんじゃないかと思います。1度失敗した人間でも、頑張ればちゃんと上がっていける。そういう事例の最大化と、影響力を高めることを目標にしています」

世の中には、天才や怪物がたくさんいるが、普通の人でもそれに追いつけること、いや、追い越せることを示したいと須田は思っている。

「僕が藤田社長を尊敬しているのはそういうところです。学生時代の経歴だけ見ると、本当に普通の人ですから。地方出身で、社宅で育って、ギリギリで入った大学を麻雀に熱中しすぎたせいで留年して……そういう人がつくった会社で、僕は凡人の可能性を広げたい」

大きく羽ばたくためには、一度、身をかがませなければいけない。須田にとって、立教大学野球部での4年間、とくに後半の2年間はそういう時期に当たっていたはずだ。あのときの挫折や悔しさがあるから、いまがある。

(文中一部敬称略)

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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