3500人以上のがん患者と接した精神科医の学び 厳しい状況に向き合う中で生き方が変わる
20歳で白血病になった大学生の石田春香(仮名)さんも、こうした経験をされた患者さんの1人でした。
共働きだったご両親に対して、本当はもっと愛してほしかったのにそうしてくれなかったという感覚を持っていたそうです。
悪性リンパ腫がわかったときも、最初は不安や悲しみより、「もっと娘を大事にすればよかった」と後悔すればいいと、ご両親への怒りを口にされていました。
ですが化学療法が始まると、さまざまな症状に悩まされます。高熱が出て、口の中が口内炎だらけで食べること自体もままならなくなりました。大切にしてきた髪も抜け、苦しみはますます深くなります。
どうして私だけがこんなつらい目にあわないといけないの?
みんなはこんなにいきいきと楽しそうにしてるじゃない──。
友人のSNSを見ているうちに怒りがわいてきて、スマホを床に投げつけてしまったこともあったと話してくれました。
自分が苦しい状況でも他人のために頑張れる人
そんなとき、同じ病棟の高齢の男性と話すようになって、彼女は徐々に変わり始めます。
その人は腎臓から肺にがんが転移し、春香さんよりもずっと大変な状況であるように見えました。
それにもかかわらず、いつも明るい笑顔で春香さんに、「どう?大変だね、よく頑張ってるね」と声をかけてくれていました。
あるとき「どうしてそんなに頑張れるの?」と尋ねると、男性は「だって、家族のために頑張りたいじゃないか。それにまだまだ誰かの役に立ちたいしね」と優しい目をして話してくれたそうです。
そのとき春香さんははっとしました。
「誰かのために頑張りたい」
その一言が、彼女にとっては衝撃的でした。
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