3500人以上のがん患者と接した精神科医の学び 厳しい状況に向き合う中で生き方が変わる

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どこかふてくされたような感覚があった自分は、誰かのために何かをしようと思ったことがあっただろうか──。

そう思いながら周りを眺めてみると、自分と同じように大変な状況の人が病棟にはたくさんいて、医師や看護師が、懸命に治療にあたってくれていることに気づきました。

さらに、夜中に自分の背中をさすってくれている看護師さんの手のぬくもりに、心からありがたいという気持ちが湧き上がってきて、「自分がもし元気になったら、困っている人の役に立つような生き方をしたい」と思うようになったのだそうです。

また、自分が病気になったことにうろたえている両親を見て、これまで抱えていたわだかまりのようなものがスッと消え、感謝の言葉が自然と出るようになったと話してくれました。

死を意識すると生き方が変わるようになる

今、春香さんは治療を終えて回復し、元気に大学へ通っています。

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先日、顔を見せに外来に来てくれたときは、入院直後とは別人のように目を輝かせてこう話してくれました。

「普通の生活ができることって、当たり前のことじゃないんですよね。そう思うと感謝の気持ちがあふれてきます。

以前は適当に就職して、誰かと結婚してぬくぬくと生活していかれたらOKなんて思っていたけれど、そんなんじゃ、せっかくの人生がもったいないですよね。今はね、夢があるんです」

私はいろいろな人の悩みに耳を傾けることで、春香さんのように厳しい状況に向き合っている人たちの体験を深く知ることになりました。死を意識し、厳しい治療を体験する中でその人が深く考えたこと、感じたことは、一つひとつに説得力があります。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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