がんと診断されて初めて、本人と家族は「誰に、どう伝えるか」問題に直面する。「がん=死」という先入観が、相手からさまざまな反応を引き出す。社会と関わる範囲が広い分、子育て世代の悩みはより大きくなる。
国立がん研究センターの最新統計(2019年8月8日更新)によると、がん患者の5年生存率は男女合計で66%を超え、その部位やステージによっては、「付き合っていく病気」になっているのに、だ。
関さんの妻は先の1件もあり、子どもへの影響を考え、取材には消極的だ。しかし、関さん自身の気持ちは少し違っていた。
がんになったからこそできること
テレビの取材依頼を受けた理由について、関さんはこう説明した。
「絵本の読み聞かせなら、まだ幼い長女にも病気について伝えられると思いました。それに普通に生活していても、誰にでもこういうことが起こりうるんだ、と社会に伝えたい気持ちもありましたね」
それに会社員が普通に暮らしていたら、家族でテレビに出る機会なんてないでしょう、と続けた。
「長女や、まだ記憶には残らないだろう長男にも、『自分の父親って、こんなことをやっていたんだ』と将来伝えられるのなら、家族とのテレビ映像を遺しておきたい、という気持ちもありました。だから僕の名前が、その画面に表示されていることが重要でした。僕のエゴなんですけどね……」
がんと生きる父親の本音を少し伏し目がちに、関さんは率直に口にした。
実名と顔出しで取材を受けたり、人前で話したりする機会も増えた。一会社員ならできない経験を積めている、と関さんはうれしそうに語る。
「取材を受けることで、責任も生まれます。社会に対して発言できる自分になることで、もっと生きていたいという意欲も湧いてくる。一連の活動が、私が前向きに生きていくための、モチベーションにもなっています」
坊主頭に紺色のニット帽をかぶった関さんはそう言うと、口角をきれいに上げてみせた。当事者として働くことと、家族を思いやること。社会に発言することと、父親として生きた証しを遺すこと。
いずれも関さんにとっては、がんになったからこそできることだ。
(=文中敬称略=)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら