台風19号で経済活動に生じた影響に見た「教訓」 物流、働き方、サプライチェーンなど多方面に

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このところ日本に度重なる災害が発生したせいか、私には現場の意識の変化が感じられる。かつて、私の知っている企業は、災害時の取引先電話確認マニュアルがあった。それは、取引先をねぎらいつつ、それでも早期の納品を乞うものだった。ここには、それでも自社の営業や生産を優先しようとする意志があった。

もっといえば、生産は止まってはならず、止まってしまうのはリスクに備える予防策が講じられていないからだ、とまで断言するひとがいたほどだ。

自社や取引先の従業員の生活優先、安全優先に傾く

それが、この近年は、自社や取引先の従業員の生活優先、安全優先に傾いている。それは予想すらできない災害が立て続けに起こったからだろう。リスクマネジメントといっても、未曾有の危機には事前策を講じようもない。だから、災害により生産が多少なり止まったとしても、まずは取引先の安全確保を第一に考え、そのうえで早期復旧を依頼する。

通常、企業間の契約書では、不可抗力条項が記載されている。これは天災などの人智を超える事態においては、契約を履行できなくてもよいとするものだ。しかし、日本企業間の取引では、不可抗力条項が明記されていても、「契約は契約、実務は実務」という本音のもとで、強引な生産継続や営業継続が行われてきた。

しかし、災害はこれからも起きる。

消費者は災害時には店が閉まっても当然と考え、さらに宅配便等が遅延するのも当然と考える。そして、もちろん予防努力は重ねるものの、企業も、取引先の操業停止をありうるものと考え、ある種の諦観をもって備えておくべきだろう。しかも、それは契約で書かれた、万が一の事態なのだから。

たぶんこれを成熟した社会というのだろう。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

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さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

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