ギリシャが危機でも医療の質を維持できたわけ 財政危機から10年、その日本財政への教訓

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さらに、薬剤費については「クローバック制度」を導入した。クローバック制度とは、薬剤費に関する政府支出にあらかじめ上限額を決め、それ以上の薬剤費がかかると、超えた分は製薬会社に代金を支払わない仕組みである。例えば、年間の予算額を100として、年度が終わったときに薬剤費が125となったら、100しか製薬会社には支払われず、残りの25は支払わない。

製薬会社にとっては厳しい仕組みで、未回収分の代金は持ち出しとなる。言い換えれば、薬価の事後的な値引きともいえる。製薬会社はクローバック制度に猛反対しているが、トロイカとの国際公約でギリシャ政府はこの制度を堅持している。クローバック制度で患者負担が増えるわけではないので、低所得者にシワ寄せが及んでいるというわけではないとみている。

入院医療には包括払い制度を全面導入

製薬会社は、そんな状態が続くならギリシャに医薬品を供給しないと揺さぶりをかけるが、ギリシャから撤退した製薬会社はほとんどないという。製薬会社がほぼ撤退しないということは、クローバック制度の上限額でも製薬会社はそれなりに利益が得られているということであり、ギリシャ政府はクローバック制度を全廃するつもりは今のところない。突発的な医薬品需要については、補正予算などで対応している。

入院医療については「包括払い制度」が全面導入された。入院医療費が歯止めなく増えるのを防ぐ方策である。

包括払いになると、疾病ごとに定められる一定額しか医療機関には支払われない。検査や治療の回数に応じて医療費が支払われる(出来高払い)のではなく、どれだけ検査や治療をしても、定められた金額しか医療機関は受け取れない。すると、医師は過剰な検査や処置をするのをやめ、できるだけ費用が少ない治療法を採用しようとする。そうすることで、病院や医師の手取り(=政府機関からの支払額マイナス費用)をより多く得ることができる。

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