斜陽の「銭湯」で大胆に集客する44歳の経営手腕 外の世界で別の仕事にも就き、家業に戻った

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また銭湯以外にもサービスを提供している。

もともと殿上湯の近くに、賃貸アパート物件を持っていたのだが、最近では民泊として提供している。

「旅館業法でとりたかったんですけど、許可がおりませんでした。昨年、民泊新法がスタートして、180日まで貸すことができるようになりました。現状、ほぼすべて埋まっています。アパートとして貸すよりずっと利益がでますね」

民泊の客の多くは、欧米人だという。

民泊で提供している部屋。畳敷きのシンプルなつくり(筆者撮影)

室内は畳敷きのシンプルな部屋なのだが、それがアメリカ人やヨーロッパ人には受ける。

「スノボーをやってた時などに、海外の友達はたくさんできました。たくさん話して、彼らが日本に何を望んでいるかはわかってました。結局、畳が敷いてある部屋に泊まって、銭湯に入るというのが、いちばんなんですよね」

原さんは、今までの人生で得てきた人脈や、アイデアを全部、銭湯にぶちこんでいる。

殿上湯の活動は話題になって、集客も増えている。

ただ人気の原因は、原さんの努力の成果だけではないという。

現在、銭湯が注目されているのは、若者たちによる銭湯ブームの影響が大きい。銭湯好きな若者たちが、ネットを使って銭湯の情報をシェアしたり、自らオーナーになって銭湯を切り盛りしたりして注目を集めている。

例えば東京銭湯というウェブメディアでは、日々新しい銭湯の情報や、コラムを発信している。銭湯ファンは増加し、いろいろな地域の銭湯に入る人も多い。

今はいろいろなことにチャレンジして、力を蓄える時期

「銭湯ブームはとても追い風になっています。銭湯のオーナーなら、このブームに乗らない手はないですよね。

でもブームに流されるだけじゃなくて、自分たちでしっかりと風をつかまないといけないと思います。今はいろいろなことにチャレンジして、力を蓄える時期だと思います」

原さんは、現在の銭湯は、“頑張っている銭湯”と“嘆いている銭湯”の二極化が進んでいると感じる。嘆いている銭湯は、今そういう追い風が吹いていることにも気づいてないかもしれない。

「でもそういう“嘆いている銭湯”にも追い風は吹いてお客さんは増えてると思うんです。ただ1~2人増えても営業は楽にならないから気づかないかもしれない。でもいま頑張れば、10人、100人とお客さんを増やせるチャンスだと思います。

ただもちろん不安はあります。ブームはいつか去ります。僕はそういう浮き沈みを見てきました。いいと言われてる今、いかに危機感を持って頑張るかが大事だと思っています。1人の客を増やすのは本当に大変ですけど、10人の客を減らすのはあっという間ですからね。

再来年にリニューアル工事をするのですが、どのようなアイデアを詰め込んでいこうか、日々考えています。そうやってこれからもずっと、老後になっても楽しく、生きている限り動いていたいですね」

原さんは笑顔で話してくれた。

殿上湯には伝統的な銭湯のノウハウだけではなく、原さんが今まで出会った人たちや、経験した物事が、すべて集約されているようだ。昭和の懐かしい雰囲気がありながら、新しい試みに満ちてウキウキする銭湯だと思った。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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