「宇宙葬」を選択する日本人、それぞれの事情 宇宙旅行の夢を死後にかなえることができる

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セレスティス社は、銀河ステージと提携する以前にも日本に代理店を持っていたが、なかなか日本に浸透せず、苦戦を強いられてきた。その理由を、銀河ステージの事務局員、生地真人さんはこう話す。

「アメリカ人と日本人では、死に対する考え方が違います。アメリカ人にとっての宇宙葬は、『かつて身内が宿っていた遺体の一部が宇宙に行く』という考え方。一方、日本人は、『魂が宇宙へ行く』『◯◯に宇宙旅行をさせてあげる』という考え方をしています。だから私たちは、日本で宇宙葬をリリースする際、日本人向けにカスタマイズが必要だと考えました」

アメリカ人は、遺骨が搭載されたロケットの打ち上げをお祭りのように楽しむが、日本人にとって「宇宙葬」は、葬送方法の1つであり、追悼の儀式だ。また、日本人が打ち上げに駆けつけるのは、距離的・時間的な理由から難しいケースが多い。そこで同社では、打ち上げの様子を動画で見られるフォトフレームと打ち上げ証明書をセットにして、実際に宇宙葬を行った後、遺族に送っている。

日本人にとって「宇宙葬」は、ロケットを打ち上げたら終わりではない。そのため、故人を偲ぶきっかけや思い出になるよう記念品を用意したところ、日本にも徐々に浸透してきた。

ただ、宇宙葬をはじめとした散骨に法律上の問題はないのかといえば、極めてグレーだ。日本では「墓地、埋葬等に関する法律」により、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」と定められているが、多くの散骨業者や団体は、「葬送目的で節度をもって行えば問題ない」と法務省がお墨付きを与えたと説明している。

しかし法務省刑事局では、「把握している限りでは、そのような見解を出したことはない」と明言。散骨に関して、法的なルールがまだ整備されていないのが現状なのだ。

「宇宙葬」は宇宙旅行の予約

宇宙葬は、事例を紹介した2プランのほかに、「月旅行プラン」と、「宇宙探検プラン」がある(いずれも税別250万円)。月旅行プランは、月面探査機に便乗し、探査機と一緒に着陸、もしくは遺骨が搭載された部分だけ切り離して月面に埋葬するプラン。

第1号は、クレーターの研究をしていた天文学者、ユージン・マール・シューメーカーだ。2009年6月、月に水の有無を調べるために打ち上げられた観測衛星「エルクロス」に搭載された彼の遺骨は、無事月面に埋葬された。

宇宙探検プランは、宇宙の果てを目指していつまでも飛び続ける宇宙帆船(深宇宙探査機)に遺骨を搭載し、宇宙空間へ打ち上げるプランだ。第1号は、冥王星を発見した天文学者、クライド・トンボー。2015年7月、彼の遺骨が搭載されたNASAの無人探査機「ニューホライズンズ」は、冥王星に接近した後、次のターゲットに向かって飛行しながら、冥王星の観測データを地球に送信し続けている。

最短では、宇宙飛行・人工衛星・月旅行プランは2020年、宇宙探検プランは2021年に打ち上げを予定。生前予約も可能だ。

「宇宙葬を、宇宙旅行の予約と考えると、ちょっとロマンを感じられませんか? 大切な人が亡くなるのは悲しいことですが、自分の死にはちょっとしたロマンがあると思うんです。自分が亡くなった後、希望どおりになるかどうかはわからないですが、せめて生きている間は、ロマンを感じて生きていてほしい。夢やロマンを商品として取り扱っていることに、楽しさや誇りを感じています」(生地さん)

死ぬことに恐れを抱く人は多い。しかし、人は誰しも死ぬ。もしも、死ぬことが少しでも楽しみになるような葬送方法や供養方法があるのなら、それを選択しない手はないように思う。多死社会は始まっている。葬儀・供養業界にかかわらず、「死」に夢やロマンを感じさせてくれるサービスを期待したい。

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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