「共感」をキーワードにした新たなEC戦略の事情 インフルエンサーの「着こなし」を通じて販売

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シュアリストの石田一帆さん(筆者撮影)

石田さんは大学生時代に読者モデルを経験。その後、会社員になったが、Instagramを通じてメイクアップ用アイテムなど美容用品の使い方を発信して多くのフォロワーを獲得。2年前に勤めていた会社を退職し、個人事業主として“インフルエンサー業”に専念している。

現在は化粧品メーカーと協業して自らのブランド「ラ ポ ドゥ ジェム」を立ち上げ、メイクアップアイテムの情報や使いこなしを発信しつつ、コスメのカラーに合わせた洋服のコーディネートも発信している。

「コスメとアパレルはセットで考える必要があるため、Instagramでもアパレルコーディネートを定期的に発信していますが、FOR SUREは自分で購入したアイテムの着こなしを発信することで、フォロワーのみなさんに普段から、どのような服を選んでいるのかを見てもらえるところが新鮮です」と石田さんは話す。

他のファッションECとは「売れ方」が違う

リデルの福田社長はプレサービスを通し「これまでとは異なる“個性売れ”がブランド側からも評価されている」と話す。

福田社長の言う「個性売れ」とは、シュアリストが着用した色や、個性的で一般的には着こなしが難しいデザインの商品が、シュアリストの写真掲載後に突出して売れるといった現象のことだ。

「売れ方の違い」は、実店舗や自社ウェブサイトなどにも波及している。通常とは異なる傾向の商品に指名買いが入るなどの現象がプレサービス時に見られたという。

「一般的なファッションECはランキングや価格で洋服が選ばれることが多く、ブランドの売り上げ順位が固定化しやすい。ブランドに安心感を求めるためです。しかしFOR SUREではシュアリストが、自分の目利きで欲しいと思うものだけを買ってコーディネートして発信します。ニッチなデザイン、色使いのブランドでもシュアリストの見立て次第で売れる。提案性の高いブランドのチャンスが広がると思います」(福田社長)

最もEC化が早かった出版業界でも、EC化による売れ筋書籍の偏りなどから、「書店員の見立て」が再注目されるといった現象が起きた。新しい本との出会いを作るには、そこに属人的な要素が必要になるからだ。アマゾンなどが取り組むAIによるリコメンドだけで解決するものでもない。

リデルではFOR SUREを「個人が個人に販売する機会を生み出すC2Cサービス」と位置づけているが、誰でも自由に発信できるわけではなく、まずはシュアリストとして選抜されなければならない。

そうした意味ではInstagramなどで影響力を持ったインフルエンサー個人が、自分の選んだ洋服を販売する「Personal to Consumer(P2C)」サービスと表現したほうが正しいのかもしれない。

もちろん、従来のファッション流通や、ヤフーが買収したZOZOのような従来型ファッション流通の扱い量が急減する話ではないだろう。しかし、流通だけでなく消費者も含むファッションのコミュニティー全体が「オンライン化」する中において、刮目すべき流れといえるだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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