0.001秒短縮に命を賭けた男たちの儲ける執念 高頻度取引に支配される金融市場のリスク
当時、話題になった技術としては「FPGA」がある。詳細は省くが、簡単に言えばCPUのオフロード化のことで、コンピュータ処理の時間短縮による高速化だ。
投資判断不要、速く注文すれば独り勝ち?
さて、こうしたHFTは証券会社や投資運用会社、ヘッジファンドといった既存の金融機関ではなく、あくまでもHFT会社が単独でやっているケースが多い。莫大な自己資金がかかるわけだが、そのスポンサーはさまざまだろう。既存の金融機関も多いはずだ。
そもそもマーケットメイク戦略にしても、裁定取引にしても、投資に必要な将来の値動きを予想する必要がない。長年培った企業を見抜くスキルとか相場の動きを判断するキャリアも不要だ。ただただ、ほかの業者よりも早く注文ができれば大きな利益を確保できる。
そうした背景からHFTは急速に発達し、莫大な量の取引を行ってきた。例えば、シンガポールを拠点とするHFT業者の「グラスホッパー社」は、日本市場をメインとしており、金融庁に高速取引を行う「高速取引行為者(HST)」としても登録している。
同社は、東証でETFの気配値提示義務を負うマーケットメーカーも務める。同社のジェームズ・リヨンCFOは、QUICKのインタビュー記事(2019年6月21日付)で、日本の月間取引額は3000億ドル(約32兆円)と答えている。
途方もない数字だが、同社の取引の大半は、買いと売りのわずかな指値の価格差によって稼ぐマーケットメイク戦略を中心にしており、相場の方向性を占って投資する戦略はほとんど実施していないため、金融マーケットの動きには何ら影響を与えていない、と断言している。
ちなみに競争は非常に激しく、6年前にはシンガポールで日本市場の取引をするプロの投資家は500~600社あったものの、現在では50社しか残っていない、とも語っている。当時、日本市場がこうしたHFT業者にとってはパラダイスであったことは事実で、アジア最大のHFTマーケットであったと言っていい。
それが一変したのは、金融庁が2018年にHSTの登録制度を導入するなど、日本での高速取引の規制が進んだことだ。これは日本だけではなく、映画『ハミングバード・プロジェクト』の原作となった『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』が注目を集めたため、アメリカや欧州でも規制の動きが広まったためと言っていい。
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