0.001秒短縮に命を賭けた男たちの儲ける執念

高頻度取引に支配される金融市場のリスク

高頻度取引とは、英語で「High Frequency Trading」のことで、略してHFTとも言われる。高頻度取引(以下、HFT)は、証券会社や投資運用会社、ヘッジファンドなどがやっているわけではなく、いわゆる「HFT業者」と呼ばれる業界があると考えればいい。

HFTは、よくアルゴリズム取引と混同されがちだが、アルゴリズム取引全体の中の1つがHFTという位置づけだ。もともとアルゴリズム取引は、コンピューターのプログラムがあらかじめ設定された内容に基づいて、売りや買い注文を「自動的に発注するプログラム」のこと。したがって、HFTではないアルゴリズム取引も数多く存在する。

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』より ©2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions

例えば、ある銘柄を大量に買ったり売ったりしたいとき、金融機関はアルゴリズム取引を使って、1度に取引が成立しないように工夫する。時間を分けて、あるいは日数を分けて売買注文を行い、大量注文によって市場が大きく動かないように配慮し、また当局から目を付けられないようにする。

一方、アルゴリズム取引の一種であるHFTは、大きく2つに分けて「マーケットメイク戦略」と「裁定取引」を使って利益を出す。マーケットメイク戦略とは、買い注文とそれよりわずかに高い売り注文を同時に出して、両社の価格差の分だけ利益を獲得するという仕組みだ。

一方の裁定取引は、例えば現物と先物、ETFなどを使って、売りと買いを同時に出し、やはりその価格差を利益にするもの。周知のようにETFは、日経平均株価やTOPIXなどの指数と連動する株式市場に上場している投資信託の一種だが、これから日経平均株価が上がると思ったときには、先にETFを購入して、その後日経平均を構成している株価が上昇した銘柄を売れば、その差額が利益になる。

マーケットメイク戦略にせよ、裁定取引にせよ、大切なことは誰よりも速く取引した業者がほぼ独り勝ちする構造になっていることだ。映画『ハミングバード・プロジェクト』も、少しでも速く取引できる環境作りを狙った物語になっている。

このマーケットメイク戦略と裁定取引の主戦場は、今やETFと言っても過言ではない。それだけ一般的に使われているストラテジー(戦略)の1つだ。例えばETFの売買高が少なくても、マーケット戦略を使えば指数の構成銘柄を売買することで「流動性」を作ることもできる。売買が活発となって、アルゴリズム取引やHFT以外の顧客も市場参入してくる。

少なくともマーケットメイク戦略は、売りと買いの指値注文を出してその注文に対応する顧客を待つ戦略と言ってよい。

通信回線の高速化だけじゃない?

HFT最大の特徴は、たとえ0.001秒でも速い業者が独り勝ちする取引であるということだ。そのためにカンザスからニューヨーク間1600キロメートルを直線でつなぐなどという途方もないプロジェクトが現実のものになる。

いったいどのくらいの予算がかかるのかわからないが、それでもほかの業者よりも速い取引ができるのであれば、コストはあっという間に回収できる。それがHFTの魅力と言っていい。

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