0.001秒短縮に命を賭けた男たちの儲ける執念 高頻度取引に支配される金融市場のリスク

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ちなみに、2000年代に入ってから始まったHFTの高速化競争は、さまざまな形で試みられてきた。高速化競争の方法は大きく分けて3つある。簡単に紹介しよう。

1. ネットワーク回線の高速化
2. 取引プログラムの高速化
3. 取引所マッチングエンジンの高速化

ハミングバード・プロジェクトは、言うまでもなく「ネットワーク回線の高速化」になるわけだが、この物語が実話であることでもわかるように、当時は大まじめに取り組んでいた話だ。実際、アジアとアメリカをHFT専用の海底ケーブルを引くという構想まで出たと言われている。

通信回線を地下に埋める方法だけではなく、光ファイバーよりも速い直線距離通信が可能となる「無線」の利用を考えて電波塔建設も試みられたようだ。

過熱する高性能なコンピューターの開発競争

2016年8月8日付のウォールストリートジャーナルは、「進化する超高速取引、光速の領域に踏み込む」と題する記事の中で、オーストラリアのシドニーに本拠を置く「メタマコ(Metamako)」と「エクスブレイズ(Exablaze)」、シカゴに拠点を置く「エクセロア(xCelor)」は、 取引所から顧客である電子トレーナーに送るデータのスピードが約4ナノ秒(1ナノ秒=10億分の1秒)しかかからない「スイッチ」を製造している、と報道している。

スイッチというのは、膨大な量の株式市場のデータを同時に数多くの取引サーバーに送ることができるものだが、このスイッチの能力を高めた業者もやはり独り勝ちできる可能性が高かった。スイッチもまた通信ネットワークの高速化の1つのツールだ。

アルゴリズム取引も、むろん投資対象によっては高速化が勝負を決める。イギリスのEU離脱が決まった瞬間のイギリス・ポンド取引も、人間が瞬きをしている間に勝負が決まった。ロンドンのFX会社はメタマコ社製のスイッチでプレグジットを乗り切ったと同記事は報道している。

日本銀行の金融政策決定会合の結果は英語と日本語で発表されるが、アルゴリズムは英文を使って分析するそうだ。英文は、先に結論から入るため分析のスピードが速い。その結果でどこよりも早く発注した業者が利益を得られる。まさにスピード競争が勝敗を分けるわけだ。

一方、取引プログラムや取引所マッチングの高速化というのは、一言でいえば「より高性能なコンピューターの開発競争」と言ってよい。取引所マッチングエンジンの高速化は、今や株式取引だけでなくFXや仮想通貨などで幅広く使われている技術で、売買取引の高速化には欠かせないテクノロジーだ。

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