「怖いもの知らずの起業」が全然ダメな根本理由 「サードドア」著者、未来の起業家に語る

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講演が終わった後、会場からたくさんの質問が寄せられた。そのいくつかを紹介しよう。

日本人の悩みに、どう答えたか

――僕は人の悩みを集めて解決するというプラットフォームを作りたいと思っています。でも、人々を巻き込むことができないという悩みがあります。

あなたの悩みは、起業する人は誰もが直面することですね。まず、あなたのアイデアが、自分自身のためのものなのか、それとも本当に解決策を必要としている人のためのものなのかを、自問自答してください。気をつけるべきは、「あったらいいな」と思うものでなく、心の底から必要だと思うものを作ることです。「欲しい」と「必要」は違います。

人は、自分がいいと思うことだけではなく、自分と同じものを信じる人、同じ信条を持っている人を助けたいと思うものです。作りたい会社のミッションやビジョンをすばらしい言葉で語ることはできます。でもそれをアピールしただけでは共感は得られません。

人に共感してもらい、巻き込むには、自分が怖いと思っていることも伝えること。そして、なぜこれが必要だと思うかを伝えることです。あなたの本心、恐怖、それを飾ることなく話してください。そうするなかで、あなたとつながりたいと思う人が現れるでしょう。

――子育て中のお母さんのために起業したいと思っています。でも「母親はこうあるべき」という無言のメッセージが強く、壁を感じています。まず家族など身近な人の理解を得たいのですが……。

私たちの文化にも、いい母親はこうあらねばならない、それは悪い母親だ、といったことはあります。でも自分が後悔してまで、他人がこうあるべきだというものに従うべきだろうか、とも思います。

私は、家族に従えとも、子どもを放っておいていいとも言っているわけではありません。でも、ぜひ考えてほしいことがあります。あなたはなぜ、「壁を感じる」「うまくいかない」「これでいいのだろうか」と思うのでしょう?

それは、他人からそう判断されて「恥ずかしい」と感じている部分があるからなのか。それとも自分が自分を信じていないからなのか。なにか不安があったり、居心地の悪さを感じたりすることは誰にでもありますが、その原因は人それぞれ違います。まずは自分自身を知らなければ、正しい答えも見つかりません。

これはどんな人にも言えます。起業家になろうというとき、周囲の人は「そんなの間違いだ」と言うかもしれません。その声に従って別の道を目指すというのも選択です。今日この場所に来ない、というのも選択です。起業など目指さず、現状を受け止めてそのまま過ごす人にも理由があるのです。

でも、これが自分のしたいことなのだと強く思うならば、立ち向かう覚悟をしてください。やろうとすることを否定され、身近な人が助けてくれないことは、実は大いにありえることです。ビジネスをするには、たくさんの痛みや苦しみ、間違いがあります。でもそれが新しいことに挑戦するということです。精神的な苦しみも、プロセスの1つだと受け入れつつ進むことができるか。ぜひ、情熱を向けられるものを見つけてください。

壁をどう乗り越えるかという問題に当たったとき、多くの人が注目しがちなのは、資金がない、人脈がない、周囲の理解がないなど、外側の障害です。でもそれは目的を遂行するための半分でしかありません。

本当に難しいのは、残りの半分。それは自分の中にあるものです。自分の恐れや不安とどう向き合うのか。どう葛藤を乗り越えるかということです。自分に対して、挑戦していいんだという許しを与えてください。自分の選択は自分で決めることができるのです。ぜひ可能性を信じてほしいと思います。

(構成:泉美木蘭)

アレックス・バナヤン 作家、スピーカー

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Alex Banayan

1992年8月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。大学1年生の期末試験の前日、アメリカの有名なテレビ番組『プライス・イズ・ライト』に出場し、世界で屈指の成功者たちから「自分らしい人生の始め方」を学ぼうと旅に出る。19歳のとき、シリコンバレー史上最年少のベンチャーキャピタルとなる。また、アメリカの大手出版社クラウン・ブリッシャーズ史上、同社と契約した最年少の作家となる。『フォーブス』誌「30歳未満の30人」、『ビジネス・インサイダー』誌「30歳未満の最高にパワフルな人物」に選出。

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