タブー破りまくり「三井・越後屋」のスゴイ戦略

日本のビジネスモデル史上最大級の革新だ

③ケイパビリティ(バリューをターゲットにどう提供するか)

商品を開発したら営業・販促をかけて受注し、部材を調達、生産・配送して、最後は集金、アフターサービスまで行わなくてはなりません。多くの人や設備(リソース:経営資源)に支えられた、膨大なオペレーションが関わります。そこに十分なノウハウや工夫がなくては、結局は競争に負けてしまいます。

④収益モデル(対価とコストは見合っているか)

①②③がそろっても、コスト以上の対価を得られなければ、事業は永続的には回りません。その算段が収益モデルです。ここで固定費・変動費などの概念や、損益分岐点分析などの会計ツールが役立ちます。

お金は使用者だけが払うとは限りません。広告主から得るのが「広告モデル」、寄付者から得るのが「寄付モデル」です。本体は割安にしてその消耗部品やサービスで儲ける「替え刃」モデル、本体を無料にして客を増やし、アイテム課金で儲けると「フリーミアム」(の一種)と呼ばれたりします。

越後屋をビジネスモデル視点で見てみる

さて振り返ってみて、越後屋の成功はビジネスモデル視点ではどう表現できるのでしょうか。まずはバリューから見てみましょう。三井高利が江戸でつくり上げた越後屋は、既存の呉服店とは大きく異なる4つのバリューを顧客に提供しました。

① イージーメイドや既製品:何カ月も待たずともすぐに着られる
② 定価販売:客による差別なし、誰でも一緒のワンプライス
③ 切り売り:小物もつくれる、気楽に寄れる
④ 低価格:同じものが競合より何割も安い

ただし、支払いにおけるバリューは、⑤現金のみ(ツケ払い不可)、としました。

江戸はもともと徳川武士のためにつくられた人口15万人の町でしたが、1635年に参勤交代が始まると、大名の江戸屋敷が建ち並び、その営みを支えるために商人や町人が増えて人口は50万人(最終的には100万人と推定されている)を突破。その半数は職人やサービス業を生業とする町人たちでした。

「支払いは現金のみ」としたことで、既存呉服店が主たる顧客としていた大名・武士などの富裕層には嫌われましたが、これら4つのバリューは町人を中心とした中間層に大いにうけました。なじみ客でない一見さんでも同じ値段ですし、低価格の既製品ですから気軽に買えます。そのうち、安さにひかれて富裕層もやってきます。越後屋のターゲットは、既存呉服店に比べると、中間層へと大きく拡大することになりました。

多くの顧客を抱え、そこに既製品を安く大量に売る。越後屋の呉服業での収益モデルは典型的な薄利多売モデルです。しかし、単に「薄利」で安くした訳ではありません。多く売るからこそ多く仕入れられ、西陣(京都)からの反物の仕入れ単価を安くできます。既製品中心だからこそ、裁断や縫製を一度に行えて効率化でき、加工費も安く済みました。

ターゲット(中間層に拡大)やバリュー(既製品)と組み合わさってこその低コスト化と、それによる薄利多売モデルでした。また、「支払いは現金のみ」としたことで、それまで多かった貸し倒れが激減しましたが、それも越後屋のターゲットが、日銭をつかんでいた町人たち中心だったからこそでした。

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