「空白県」奈良にJR直通特急のニーズはあるか 9年ぶり復活、近鉄特急とは競合でなく共存

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こうした近鉄特急が圧倒的な優勢の状況で、JR西日本は1日1往復の臨時特急で挑もうとしているのか、と言えばそうではない。

同社はおおさか東線の全線開業を記念し、今年3月16日から6月末まで奈良を舞台にしたキャンペーンを展開。世界文化遺産に登録された法隆寺、春日大社、興福寺、元興寺、東大寺の5社寺で特別企画を実施した。

その一環で設定した「奈良満喫フリーきっぷ」(大人3200円)は、来年3月末まで販売している。ネットサービスの「エクスプレス予約」「スマートEX」「e5489」での予約などJR利用者に対象を限定したオプション商品で、奈良を中心として大阪・京都の決められた区間で普通列車が3日間乗り降り自由になる。兵庫県の尼崎や三重県の伊賀上野、和歌山県の橋本までもカバーする。

JR券なのに近鉄乗り放題

最も特徴的なのは、JRと奈良交通バスだけでなく、近鉄線も大阪難波や京都、吉野を含む広い範囲で乗り放題とした点だ。めったにない新線の開業記念とはいえ、ずいぶんと太っ腹な印象があるが、JR西日本のある担当者は「いまや競争ではなく、相互に連携しながらエリアを活性化させていく時代だ」と語る。

万葉まほろば線からは105系がまもなく引退する(記者撮影)

森川大阪支社長は8月の記者会見で、奈良へのJR線の観光利用について「第一級の観光スポットがたくさんあるにもかかわらず活用できていなかった」と振り返った。JRのアクセス向上をきっかけに近鉄、バスをうまく組み合わせながら県内を周遊してもらえれば、各エリアのにぎわい創出や混雑の分散につながる。

奈良盆地を望む井寺池のほとりの歌碑(記者撮影)

おおさか東線の全線開業で、新大阪から聖徳太子ゆかりの法隆寺がある斑鳩(いかるが)エリアへも直通快速1本で行けるようになった。一方、万葉まほろば線の桜井駅では、近鉄と乗り換えて長谷寺や橿原神宮、飛鳥などへ足を延ばすこともできる。

聖徳太子没後1400年記念事業や大阪万博の開催など、これからも商機の多い奈良。交通事業者がうまく協調しながら周遊の利便性を高め、誘客拡大を図るためには「和をもって貴しとなす」の心がますます重要になってくると言えそうだ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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