五輪で人生激変!小鴨由水が歩んだ過酷な人生 マラソン代表選考騒動に巻き込まれた代表選手
「彼に支えられていた面が多くて……。今でもそうなんですけど、まだ見守ってくれているというのが常にあります」
光司さんの死を経て、小鴨はある思いを抱くようになる。自分のように、家族を亡くした人たちの力になりたい。そんな気持ちから、小鴨は保険会社の営業レディとして働き始めた。2018年3月に独立して、引き続き顧客の対応を請け負っている。
また、西日本短期大学の非常勤講師としてウォーキングやジョギングの指導をしたり、ランニングの個別指導、障がい者向けのランニング教室、ゲストランナーや伴走などを行って、多くの人に走る楽しさを教えている。
周りの人に支えられてきたからこそ、今度は自分が支える立場で恩返しをしたい。マラソンの酸いも甘いも経験した小鴨からは、そんな思いがひしひしと伝わってくる。
「あの(オリンピック前後の)経験があったから、今こうやって子どもを育てながら、一生懸命人生を楽しめています。すごく大事な半年間でした。これからも大切にしていきたいです」
走ることが楽しかった小鴨を「出たくない」とまで思わせたオリンピック。それでも、激動の半年間は悪いものではなかったと振り返る。
MGCはすごくいい基準だと思います
2020年東京オリンピックでは、東京五輪マラソン代表選考レース・マラソングランドチャンピオンシップ(略称「MGC」)という、新たな選考過程が生まれた。小鴨は「MGCはすごくいい基準だと思います」と話す。
いよいよ9月15日に迫ったMGC。この大会には、指定のレースで基準となる順位やタイムをクリアした選手たちしか出場できない。MGCの上位2名は、そのまま東京五輪代表に内定する。一発選考ではなくなったことで、かつての小鴨のように、一度の好成績だけで五輪代表に選考される可能性は低くなる。
「みんながオリンピックを意識している大会なので、私みたいにオリンピックに出るつもりがない人は、まずいないですよね。『この大会で決める』と、選考レースが明確にされているので、オリンピックにピークを持っていきやすいと思います」
選手自身も、応援している人たちも納得がいく基準になったと、小鴨は考える。
ただ、五輪代表が決定した後で、思うように調子が上がらず、やっぱり走りたくないと悩む選手も出てくるかもしれない。自らも走りたくないと思った経験を踏まえて、選手自身、そして周りの人たちの心がけを教えてくれた。
「感情の浮き沈みはどうしてもあるので、悪いときの感情だけで決めないほうがいいです。私もそうでしたが、オリンピックに出て良かったと、後になって思えたんですね。周りの人たちは、出たくない選手が出たいと思えるようにアドバイスをしてあげて、最終的には選手本人に決めさせてあげれば良いと思います」
多くの大切な人たちに支えられてきた立場として――。自身の経験を話す小鴨の口調は明るく、マラソン界をはじめ大切な人たちの未来がもっと輝かしいものになるよう、やさしく思いやっていた。
(文中敬称略)
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