MMTが「こんなに誤解される理由」を考えてみた 政権を取れるのか「受難の経済学」今後の論点

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それではなぜ軋轢が生じるのか?

MMTは、貨幣に関するメカニズムに事実ベースで立脚しつつ、上述の「貨幣の名目主義」に関して首尾一貫している。

それに対し、主流派の学説は経済に関する規範理論(あるべき姿)がまず根幹にあって、その規範はレッセ・フェール(自由放任)を原則にしている。その規範から派生して実際に即した各論(貨幣論含む)を整備してきた、という背景が大まかに言えばある。

実は、貨幣の名目主義は、主流派の規範理論と相性がよくない。主流派のレッセ・フェールと相性がいいのはどちらかとい日本語えば「貨幣の金属主義」のほうである。

しかし「貨幣は金の引換券」(金属主義)というよりは「貨幣は負債の記録」(名目主義)だというのは事実としてそうであり、これは主流派も認めるところではある。このことが、MMTに議論上の堅牢性をもたらし、主流派の首筋を寒からしめる遠因となっている。

「貨幣」は現代の経済理論にとっては必要不可欠なものであり根幹となるものである。主流派がその重要部分で理論的陥穽を自覚させられるたびに、MMTにアキレス腱を狙われるがごときの心境となっても不思議はない。そうであるならば、アレルギー反応を示すか無視を決め込む主流派の学者が多いとしても、それなりに理解できる態度ではあるだろう。

ただ、主流派から見ればMMTの理論には甘さがあることも事実で、とくに経済成長や金融政策論に曖昧さが見える。この部分は主流派が得意で実績も上げているところであり、MMTの発展の見地からもこれから議論が待たれるところではある。

大まかに言って、「先に負債がある」から始まるMMTは、負債は必要不可欠な存在と考えるがゆえに、負債に寛容な経済学である。

また「先にモノがある」から始まる主流派は、”持てる者”の自由な交換を重視するがゆえに必ずしも負債の存在が必要でなく、自由な交換の秩序を脅かしかねないほどの負債を危惧する経済学である。

主流派からの”異端”扱いやMMTの”受難”の経緯を見れば、”神学論”にも似た印象も受けるが、それゆえに議論はヒートアップする傾向にあるのかもしれない。

ただ、「完全な経済学」というものがいまだ存在しない以上、お互いが補完関係になりうるものと思う。

私はこの主流派とMMT派の論争が、これからの経済学を本質的により頼もしいものにし、より世の中に役立つものになれる大きな機会になると確信している。

MMTによくある典型的な誤解

「MMTは理論の体をなしていない」

目新しい理論だという印象も強いMMTだが、伝統的な経済学の理論的系譜の延長線上にある。ジョン・M・ケインズ、カール・マルクス、A・ミッチェル・イネス、ゲオルグ・F・クナップ、アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー、ワイン・ゴッドリーらの見識の上に築かれたアプローチである。

また「MMTは数学的でない」という意見もあるが、例えば「政府赤字の持続可能性の条件」などに実際に数式モデルも使われている。

ただし、現状、MMTはマイナー勢力で、ポスト・ケインジアンと呼ばれる非主流派の、そのなかの一派であり、その理論の理解者が少ないというのが実際のところだ。

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