MMTが「こんなに誤解される理由」を考えてみた 政権を取れるのか「受難の経済学」今後の論点
MMTの理論内容というよりは、両国で置かれている経済状況に違いがあることにより受け入れられ方が異なっていると見るべきだろう。かたや好況だが経済格差が進み(アメリカ)、もう一方は経済成長が弱くデフレ脱却が十分でないという事情による(日本)。
アメリカの過酷な経済格差には、セーフティネットが必要とされており、その実現を主張する左派に支持されている。そして日本では、デフレ脱却がまだ不十分と考える論者に保守派が多く、デフレ脱却の具体的施策として支持されている。
いずれにしても、MMTの財政支出の考え方に重要性を見いだしているという点は共通点している。
今後、MMTで注目すべき論点
施策実行面での不確かさは多くの専門家から指摘されている。
典型的なのは、財政政策の量の調整によって本当にエレガントに経済運営ができるのか、という疑問だ。財政政策の調整は予算作成と承認に時間がかかり、また税制を変更する場合は法律的な変更も必要になる。
つまりフレキシビリティに欠けるのではないか、という懸念がある。ただ、主流派であっても、歴史上、理論を実際に試しながら改良発展してきた経緯がある。議論だけでは限界があるかもしれない。
実装すべき理論に関しては、政府予算制約でなくインフレ率ウォッチを優先する以上、MMTにインフレ率の予測モデルの実装と検証は必要ではないかという指摘もある。ただ、これは主流派が用意してもいいのかもしれない。
政策の議論に際しては、とくに金融政策面に関して、主流派とMMTのギャップは大きい。例えばクラウド・アウトや自然利子率の議論で食い違いが顕著で、建設的に議論が噛み合うためにはそれらの齟齬(そご)を埋める必要はあるだろう。
逆に主流派は財政政策重視の考えが苦手ではある。近年の世界的な「反グローバリズム」政党台頭への理解にMMTから学ぶところは多いかもしれない。
私は、この可能性はあると思っている。サイモン・レン・ルイスの見解(MMTの結論は標準的なマクロ経済理論から導かれるものに近い)をほかの主流派学者も受け入れられれば、そして理論面の詳細に両陣営が過度にこだわらなければ、財政出動の効果を十分に得るべきと考える、例えば主流派左派(ニューケインジアン)は具体的な政策方針においてMMTとコンセンサスを得られるかもしれない。
昨今、財政出動重視を打ち出してきている主流派左派の重鎮たち、例えばオリヴィエ・ブランシャール、ローレンス・サマーズ、ポール・クルーグマン、ジョゼフ・スティグリッツらに注目しておきたい。
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