年金制度を見直す仕組みの歴史を知ってますか 財政検証後に開かれる年金部会が重要なワケ

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冒頭で触れた知人の記者も理解していて、「本体試算の話は、いくら解説しても出口のない話で落語でいえば、マクラでいいのではないかと」と言っています。そのとおりですね。

8月27日の年金部会でも、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明委員が指摘され、僕も同意していたのは、今回の財政検証資料で最も大切な資料は、オプションAの適用拡大とオプションBの基礎年金の拠出期間延長などを同時にすべて行った「オプションAとオプションBの組み合わせ試算」の資料だということです(資料の22-24ページ、14-21ページもご参照あれ)。

適用拡大を325万人ほど行った組み合わせ試算では、所得代替率が7ポイント台の高まりをみせ、適用拡大1050万人ベースでは、所得代替率が11ポイント台の伸びを示します。これは、今の高齢者が受給している年金の所得代替率を超える水準になり、いま、若い人たちが将来高齢期に達したときの貧困リスクを相当緩和することができるようになります。財政検証で示されたオプション試算の方向への改革、やるしかないでしょ。

と言っても、大手メディアは顧客層である専業主婦に気をつかってあまり協力してくれなかったり、メディアも政治家も、逆に、中小企業擁護という一見すればあたかも正義に見えたりするポジションについたりと、適用拡大を進めようとすると、事業主負担が増える当事者以外にも、思わぬところから撃たれて、今回も改革が頓挫してしまうおそれもあります。

オプション試算を反映しない未来はない

最近では、年金財政が苦しいから、支え手を増やすために非正規労働者にも負担を求めようとしているなどの誤解のうえに誤解を重ねた珍説が登場したりしていますが、常軌を逸した珍説が力を持つ世論になっていったりした過去を、年金は数多く経験しています。

そうした難題であることをわかったうえで、僕は財政検証が発表された翌8月28日の新聞で、次のように答えていました。ちなみに、僕は年金部会において、「世の中なかなか絶対という言葉を使えないのですけれども、適用拡大は絶対正義」と発言しています(第4回年金部会議事録(2018年9月14日)。

水準改善 最後の好機
財政検証は、今の20~30代の世代、特に「どうせ年金はもらえない」と信じ切っている人たちにこそ、関心を持って見てほしい。
年金制度でまず押さえるべきは、将来の給付水準は絶対的、固定的なものではなく、可変的なものということだ。経済環境によっても変わるが、自分たちの選択や努力でも変えていける。
6ケースの本体試算は、現行制度を前提に「今の針路でいくとここにたどり着く」という海図のようなものだ。航路を変え、将来の給付水準を上げる戦略を立てるために行うのがオプション試算で、これが重要になる。
次の年金改革で最大の課題は厚生年金の適用拡大だ。従業員501人以上の企業が強制適用だが、企業規模で適否を変えることに合理性はない。規模要件の撤廃は絶対条件だ。
現在40代前後で非正規労働の期間が長い「就職氷河期世代」が、適用拡大で厚生年金に加入できるようになれば、老後の年金が上乗せされ、老後の貧困リスクを軽減できる。改革のタイミングとしてはラストチャンスだ。
もう一つは、国民年金の加入期間の延長だ。政府が「Work Longer」(長く働く)を唱え、引退年齢を65歳以上に引き上げようとしている中、国民年金の加入義務が1961年の制度創設時から変わらず「60歳に達するまで」のままなのはおかしい。65歳まで延ばすべきだ。
オプション試算では、加入期間延長による給付水準の改善効果が大きいことが示された。将来、最大1.2兆円の国庫負担が必要との試算も出されたが、その額が必要となるのは40年以上先で、手当てする時間は十分ある。
年金改革は「植樹」のようなものだ。今の若い世代が将来受け取る年金の給付水準を上げていくには、数十年後の成果を見越して今のうちに改革していかなければならない。この国には、オプション試算を反映しない未来はないのである。次の年金改革に大いに期待したい。【聞き手・横田愛『毎日新聞』】
 
権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

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けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

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