日韓不和なのに空前の「韓国文学ブーム」のなぜ 韓国フェミニズム特集の「文藝」86年ぶり増刷

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一方、1950~1960年代に生まれた世代は、植民地時代や第2次世界大戦、朝鮮戦争を体験した親の下で育っている。1961年に朴正煕のクーデターで始まった独裁政権時代を過ごし、民主化運動を武力で鎮圧した1980年の光州事件の悲劇も同時代に接している。そういう時代を通過していない若手が、より自由な発想を持つのは当然といえる。

韓国の政治体制が変わり、経済成長時代に入ったのは、1987年に民主化運動が起こって大統領直接選挙、憲法改正が実現してからだ。1988年のソウルオリンピック、1991年の国連加盟と順調だったが、1997年のIMF危機で大きなダメージを受けた。2014年には日本でも報道された韓国最大の海難事故、セウォル号事件が起こっている。

韓国の現代史をたどると、試練と抑圧、自由の激しい波にもまれ、作家が社会意識を持たざるをえないことがわかる。

最初から「海外市場」視野

また、人口が約5182万人と、日本の半分以下しかない。そもそものマーケットが小さい国で、K-POPと同じように、文学も輸出を前提とせざるをえないのではないだろうか。留学で来た日本でそのまま就職するなど、就職が困難な国内に見切りをつけ、海外へ出ていく若者も多い。国内で充足することが可能な日本より、外国を身近に感じざるをえない環境なのだ。

善きにつけあしきにつけ、世界の中の自国を意識しつつ、現代社会の共通の悩みに取り組んだ意欲作が次々と出される韓国文学。儒教文化圏という共通性を持ち、同時代を生きる隣国の日本人にとって面白いのは、当然なのだろう。

文学はノウハウ本やビジネス書のように、問題を明確に指摘して解決法を伝えるわけではない。しかし、人間の心は問題を解決すれば癒やされるとは限らない。たやすく解決できない問題もある。そんなときに助けとなるのは、寄り添ってくれる誰かや何かである。

文学には、個人の体験や思いを描くことで、読む人の心に寄り添い解放させる側面がある。モヤモヤとしていた思いを代弁し、自分の気持ちを明確にしてくれる。そして、現実から離れた世界に没頭する楽しさは、ゲームや映画が登場する以前は文学が担っていた部分が大きい。

その力を今、とくに強く発揮しているのが韓国文学なのである。文芸書が売れないと言われる中で生まれたブームが、本を読む楽しさをより多くの人に伝え、再び文学が活性化する時代をもたらすかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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