中国人の「医療ツーリズム」熱が高まるわけ コーディネーターの質など普及には課題も

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日本の医療機関関係者は「患者の中には中国の医療水準より、日本の医療水準のほうが高いという認識があり、安心できる日本の医療へのニーズが高まっているようだ」と話す。

医療目的でやってくる中国人が増えつつある一方、基本的に日本語を話せない彼らが自分たちで健康診断や治療の予約をするのはかなりハードルが高い。そこで、こうした中国人の心理的負担を減らす存在として注目されるのが、患者と医療機関をつなぐ「医療コーディネーター」である。

外国人患者の要望をきめ細かくヒアリング

医療コーディネーターは大半は中国人で、基本的には専業の会社に所属して語学の研修も受けて活動している。口コミや中国内の代理店経由でやってきた患者に対し、「どういった目的で来日するのか」「どの医療機関で健康診断や治療を受けるのか」といった要望を治療を受ける前にヒアリング。患者に代わって医療機関に受診の予約を入れる。

さらに、医療行為時に立ち合う通訳者も別途手配する。帰国後も診断結果の書類の翻訳や、万が一トラブルがあった際のアフターフォローも行う。医療コーディネーターは治療費の数%に相当する金額を受け取る。前述の付さんも「医療コーディネーターがきめ細かくアテンドしてくれたので、安心して施術を受けられた」と話す。

数ある医療のなかでも、今後特に成長が見込まれるのがアンチエイジング施術などを含めた再生医療の分野だ。日本では2014年に再生医療関連法が施行される一方、中国では再生医療に関する法律がまだ整備されていない。医療コーディネーターを手配する在日中国企業「医信」の李婧(リ・ジン)社長は、「昨年末から問い合わせが格段に増えるようになった」と話す。

医療ツーリズムを支えるのは、中国企業だけではない。日本の旅行会社大手JTBは2010年、医療コーディネーター事業を展開する「ジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター(JMHC)」を社内に立ち上げた。同センターの松嶋孝典所長は、「中国人観光客が医療目的で訪れるのは、現在のところ東京など大都市圏が主流だ。ただ、中国人は地方にもレジャー目的で訪れるようになったので、医療ツーリズムも地方に広がっていくことを期待する」と語る。

『週刊東洋経済』9月2日発売号では、外国人観光客の最新トレンドを特集。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ただ、医療ツーリズムの普及には課題もある。医療コーディネーターの質の問題だ。都内のある美容整形外科の院長は、「中国人が『医療コーディネーターをやりたい』と連絡してくることもある。ただ、医療通訳なので専門用語がわからないといけないが、明らかにそういった知識がないのに売り込んでくることが多い」と明かす。中には医療知識が乏しいコーディネーターを採用してしまった医療機関もあり、患者に間違った通訳をすることでトラブルに発展するケースもある。

松嶋所長は「医療ツーリズムへの人気が高まる中で、医療ツーリズムやコーディネーターへの規制は基本的にはない。悪質な医療コーディネーターを取り締まるための枠組みを作る必要があるのではないか」と口にする。五輪後も成長が見込める医療分野で、訪日客を呼びこむ体制作りが必要不可欠だ。

【2019年9月4日20時04分追記】初出時のコメントを上記のように修正します。

若泉 もえな 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

わかいずみ もえな / Moena Wakaizumi

東京都出身。2017年に東洋経済新報社に入社。化粧品や日用品、小売り担当などを経て、現在は東洋経済オンライン編集部。大学在学中に台湾に留学、中華エンタメを見るのが趣味。kpopも好き。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事