富士フイルムは「倒産のコダック」に勝ったのか 日米の「イノベーションの効率」を問い直す
富士フイルムは、フィルム事業で培った技術をヘルスケアなどの領域に展開していきました。しかし、コダックもフィルム・ビジネスを行っていたわけですから、社内の研究者たちは同じような技術を持っていました。そして、多くの優秀な研究者やマネージャーは早くにコダックを離れて、自らビジネスを展開していったのです。
実際、コダックの研究所があるニューヨーク州のロチェスターには、コダックから派生した企業が多くあります。例えば、デンタルやメディカルの画像システムの世界的なサプライヤーであるケアストリームヘルスは、2007年にコダックから切り離されたヘルス部門が母体です。
2社の比較では全体像をつかめない
スタートアップのトゥルーセンス・イメージングの社長に就任しているのは、コダックの画像センサー部門の部長であったクリス・マクニフ氏です。1999年に設立されたロジカル・イメジィズでは、コダックからスピンオフしたトップエンジニアが医療用のソフトウェアの開発を進めています。
コダックで1987年に世界最初のマルチレイヤーの有機発光ダイオードを開発したスター研究者の1人であるスティーブ・バン・スライク氏は、2008年にカリフォルニアのメンローパークで設立されたスタートアップ企業のカティーバでその事業化を進めています。
このように、富士フイルムとコダックの「事業転換の成否」や「イノベーションの成果」を考える際には、その2社だけを見ていては全体像がうまくつかめません。社会全体への貢献度を考えるのであれば、富士フイルムのヘルスケア部門と、ヘルスケア・ビジネスに従事しているコダック出身者たちのパフォーマンスを比べないと、総合的な比較はできないのです。
このことは、企業単位でイノベーションや収益力を評価することの限界を示しています。経営資源の流動性のあり方によって、成熟したビジネスからの転換(脱成熟)の仕方が違ってくるのです。日本のように人の流動性が低い社会では、企業単位で事業の転換を図ることになります。一方、アメリカのように流動性が高い社会では、優秀な人材が企業の外に飛び出して起業しやすいので、必ずしも企業が事業転換の重要な単位にはならないのです。
どちらのほうが事業転換はうまくいくのでしょうか。それはこれから実証的に分析しないといけないところです。ただし、これまでの研究からすると、社内の転換だけに任せていると、社内の強みを破壊するようなイノベーションは起こりにくいということが予想されます。
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